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からくり童子 第7話 始まりの刻 第52回 モンスター強襲

通常更新版になります。
第7話 始まりの刻
第52回 モンスター強襲


ギガントである。
ギガントは人間の体質変化体である。
体力に優れ、攻撃力はかなりのものだ。
反面、動きは鈍い。脳は萎縮しており知恵がない。
ほぼ本能のままに生きている。
ギガントは森に生息しているモンスターであり、荒野を渡り人里にくることは無い。
ジードの発した風により、森が破壊され住処を奪われたモンスターが、風の足跡をたどってイザークの村に襲来したのである。
が、村人はそんなことは知らない。

グギャウォーーーーーーーー!!

ギガントは怒り狂っていた。
村の入口付近の家々を次々に壊していく。
村人も、いつまでも驚いている場合ではなかった。

「女子供は逃げるんだぁー!」

貯水池の周りに避難させた。
人口の森とは言え木から湧き出た水は、多少のモンスター除けの効果はある。
ギガントほどのモンスターは、近づかないであろうと予想しての事だ。

「武器をもってこい!」

「そんなもん、探してる場合じゃないだろう!!」

男たちは身の回りにあった木や石を手にとり、モンスターへ向かっていった。

「ウヲォーーー!!!」

まだ戦うための武器も無く、戦う術も知らない村人たち。
4メートルもあるギガントに立ち向かえるはずもない。
だが、村人だって家族を守り、住まいを守り、仲間を守り、村を守らなければならない。
必死であった。

「取り囲め!死角から攻めろ!!」

石を投げたり、棒で叩くのかと思いきや投げつけたり、それなりにやってみたが効果は無い。

「火だ、動物は火に弱い」

と、叫ぶ者がいた。

「よしっ、やってみよう」

棒を手にしていたものは火をつけ、ギガントに振りかざしてみた。

「どうだ、火だ、燃えちまうぞ」

「恐いだろう、恐いだろう、自分の住処に帰れ!」

ギガントは火を避ける仕草を示した。
一応の効果はあるのだが、何せ身長の差が有りすぎる。
腕を大きく振ると、村人ごと払いのけてしまった。

「どうすりゃあいいんだ」

村人はなす術がない、愕然としてしまった。

「みんな、どけ!!」

この異常事態にようやく気付いたゼファーが、風車小屋を飛び出してきた。
ギガントに20メートルほどの距離を置いて止まり、両足を大きく前後に開き、腰を落としす。
その両手には、トランペットに似た物を抱えていた。
それは、少年が腰にぶら下げていた物と同じであった。
空筒砲である。
空気の充填は、既に完了している。
村人が、ギガントから離れたことを確認したゼファーは、空筒砲のトリガーを引いた。

ブシュ

やっぱり発射音は、しょぼい。
しかも、その空気弾はピンポン玉程度の大きさだ。
これで、4メートルにもなるモンスターを倒せるのか。

キーーーーーーーーーーーーーーーーーン

空気弾はギガントに向かって、一直線に飛んでいった。
周りの空気をからめとり、急速に大きくなっていく。
それは、こぶし程度の大きさになり、バレーボールほどの大きさに。
そして、子供の背丈ほどの大きさまでになった。
さらには砂を巻き上げ、ギュルギュルと音を立てながら渦を作り、かなりの回転を加えている。
しかし、村の中は地盤を整えているので、荒野ほどの空気弾にはならない。
それでも、打ち出したときより数倍の大きさになった空気弾。

ズドドーーーンン!!!

2体のギガントを、その渦の中に巻き込んだ。
空気弾により空中に投げ出されたギガントは、回転して苦しそうである。
だが、威力が弱すぎた。
はじける事無く、地面に落下した。気絶させたに過ぎなかった。

「だめか、村の中では威力は出んか」

何度か打ち出せば、でかいモンスターでも倒せる。
ゼファーはそう思いながら、再び空筒砲のスイッチを入れた。

「何だ、あれは」

「何をやったんだ、ゼファーは」

周りにいた村人たちは、何が起こったのかわからず呆然としている。
この光景を見ていた他のギガントは、怒り来るった。

グギャウォーーーーーーーー!!

耳を劈くほどの唸り声を上げた。
自分たちの住処を奪ったのは、ゼファーだと勘違いしてしまったのだ。
1体のギガントが、ゼファーに向かって来た。

「うわ、待て待て、後3分待ってくれ」

そんな言い分が、ギガントに伝わるはずがない。
ギガントは拳を大きく振り上げ、ゼファーめがけて打ち下ろす。
ゼファーはひっくり返って、両腕で顔を防御した。

「うわっ、もう駄目じゃ」

その時である。

「テイヤーーーー!!」

ギガントの後から声が響くと共に、その頭上には太陽の光を受け、きらりと光る大刃の物体が姿を現わした。
牛を一撃で倒せるような大きな刃。
そう、牛刀であった。
その牛刀は、ギガントの頭からまっすぐ下に打ち下ろされた。
瞬く間の出来事である。
ギガントは、自分が死んだことさえ気付かぬほどの、早業であった。
ギガントの体は真っ二つに分かれ、それぞれ左右へと崩れ落ちる。
その中央に現れた姿は、小柄な少年であった。

「じいさん、この村にゼファーはいるか」


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からくり童子 第7話 始まりの刻 第51回 ガラクタ山の解体

通常更新版になります。
第7話 始まりの刻
第51回 ガラクタ山の解体


イザークの村では、防衛に対する強化を進めていた。
みな懸命に通常の仕事と合わせて、せわしく働いていた。
ノーグがモザークの村に行ってから5日目である。
まだ、何の連絡も無い。
そんな中で天才からくり技師のゼファーは、電気の獲得について1つの答を出していた。
村の奥にある山の上には、ゼファーやノーグが自ら作り育てた森がある。
その森から湧き出た水は、滝となってイザークの村の貯水池に落ちる。
そう、風が駄目なら水である。
現代社会に生きる皆様方には簡単な答だと思う。
しかし、文明を失ったこの物語の世界では、奇抜な発想であった。
天才からくり技師である、ゼファーならではの発想であった。

「風でまわすか、水でまわすかの違いだけである。理屈は同じじゃないか」

これは、良い結果を作り出した。
気付かぬ方がいるなら、お教えしよう。
風車が回るのは風が吹く時間。
つまり、夕暮れから朝方までがほとんどであった。
一方水は、滝となっていつも山頂から落ちてくる。
したがって、四六時中発電が可能となる。
それは、からくり人形の充電だけではなく、村人の日常生活にも使用できるほどの電気を生み出すことが可能になるという事である。
色々課題はあるとは思うが、実現できれば村人の生活や仕事においても、かなりの効果が高まると期待できる。
夜の警備に際しても、利用できるのではないかとゼファーは考えていた。

「やはり、わしは天才だの」

ジードは今だに目を覚まさなかった。

「本当に壊れたのではないか」

と、ゼファーは思ったりもする。
毎日フィズリーに頼んで見てもらっていた。

「ジード、早く目を覚ましてよ」

各々防衛の手段を講じていた村人たちは、補強するにあたっての材料の獲得に、頭を悩ませている。

「補強たって、材料はどこにあるんだよ」

元々荒地を開墾して今日に至ったイザーク村は、材料が乏しく簡単に手に入るものではない。
村人は考え、ガラクタ山から材料を取り出そうという事になった。

「もう、幽霊は出ないよな」

「突風が起きたりしないよね」

ガラクタ山と言えば、火の玉が出たり突風が吹いたりと考え、近づく事を恐れていたのだが、今日はその現象も起きていない。

「大丈夫だって、ここ1週間、何も起きてないだろう」

もう今は恐れる必要は無い。
それに材料が手に入る箇所と言えば、ガラクタ山しか考えられなかった。

「よーし、全員で取り掛かるぞ」

村人は全員で手分けして、ガラクタ山の解体を行った。

「何だろう、これ」

「変な物ばかり出てくるよ」

出てくるものは、樹脂や合金。
それに、からくり装置なる機械類であった。
そのままでは使えないものばかりである。

「使えんのか、こんなもん」

「だれか、わかる者はいるか」

「とりあえず、似たような物で集めとこう」

合金の類は鍛冶屋のトンカに加工してもらうために集め、樹脂の類は服屋のジャンパに加工をお願いし、機械の類はゼファーに渡した。

「これ、なんだろう」

「あっ!これ、フィズリーお姉ちゃんの、お花の種だよ」

フィズリーが手にしていた、チューリップの球根も見つかった。
気の遠くなるような作業であるが、イザーク村の防衛の為には必要なことであった。
村人全員による懸命の作業により、ガラクタ山はみるみる小さくなっていく。
そんな時である。

グギャウォーーーーーーーー!!

天を割り地を引き裂くような唸り声が、村中に響いた。
その轟きに建物が揺れ、腰を抜かしてしゃがみこむ者もいれば、泣き出す子供もいた。
あまりの恐怖に声も出ない。
それでも、恐る恐る唸り声の方を伺い見る。
そこには4メートルはあろうかと思われる、1つ目の人型モンスターが6体もいた。


からくり童子 第7話 始まりの刻 第50回 イザーク自警団誕生

タニヤの店での村人会議で決まったことは、こうであった。
モザークの村に、戦闘訓練の為の救援要請を出す。
モザークの村では大分以前から自警団が組織され、盗賊やモンスターの撃退に多くの成功を収めている。
救援要請には、ノーグと2人の若者が当たる事になった。

「まかせてくれ、モザークには俺の従兄弟がいる」

「まだ、生きてればの話しだがな」

ノーグは元々モザークの村の住人で、イザークの地には開拓者として両親と共に移り住んできた過去がある。

「昔の事だからな、覚えてくれてりゃいいんだが」

血縁者もいて、話を通しやすいというのが理由であった。
ノーグは夜明けと共に、既にモザークの村へと旅立っていた。
モザークの村は南に10キロほどいった所にあるのだが、その間の荒野はモンスターがいる。
モンスターを刺激しないよう慎重に移動しなければいけないため、往復でも5日はかかると考えている。
次に大工のトンカ、鍛冶屋のハンマ。
この二人が中心になって、戦闘技術を身に付けようというのだ。
トンカとハンマも、ノーグと共にイザークの地に家族で移住してきた同士である。
もう30年前の少年の頃であるが、この三人は多少の戦闘訓練を受けていた。
この2人に決まったのは、ノーグよりも年齢が上で、戦闘訓練を受けた期間も長いという理由だ。

「こんな時に、ショーバが居ればなあ」

ショーバとは、少年とジョグの故郷にやって来た旅人で、ゼファーの発掘・修理した機巧装置を売って歩いていた。
また、村では製造されないような物を購入したり、人材の確保を担っていた。
服屋のジャンパや羊飼いのメイなどが、ショーバの誘いによってイザーク村に移住してきた者たちであった。
このショーバは、少年とジョグがイザークの村に旅立つきっかけとなった者だ。
この男の家族も、ノーグの家族と共に移住してきた同士なのだが、イザークの村に居を構えても尚、日々戦闘訓練に磨きをかけていた人物である。
今では、モンスターが跋扈するこの世界を旅できるほどの戦士となっていた。
が、まだ旅の途中だろう。イザークの村には不在であった。

「子供の時に訓練しただけだからな、自信は無いぞ」

知らないよりは良いという事で、トンカとハンマが指導員となった。

「モザークの戦士が来るまでだ。何せ、基本しか知らんのだから」

もちろん、モザークの村人が救援要請を受け、指導員を派遣してくれれば問題ない。
この戦闘訓練は襲撃を受けた際、それをかわしながら避難することも含まれていたため、村人全員が参加する事になった。
武具の製作をハンマと服屋のジャンパが担当。

「剣だろう、……、包丁のでかい奴だったかな」

「軽くて丈夫で、モンスターの爪にも引き裂かれない服?そんな都合の良い服なんて出来るか!」

食料の確保を農家のツーチ、羊飼いのメイ、果物屋のツールフ、養鶏業のチャンボが担当。

「保存の効く野菜?やっぱり芋類、豆類かな。葉野菜は駄目だぞ」

「やっぱりチーズよね。私の作ったチーズは最高よ!」

「果物を長期保存?……。乾燥フードよね。作れるかしら」

「鶏肉を燻製にでもするか。卵?それは鶏のスザンヌさんに頼んでくれ」

大工のトンカは村の入り口に強固な門を制作することとなった。

「作れって言われりゃ作るけどよ。どうすんだ、材料。森を伐採するのか?」

水の確保は八百屋のレスタとニラの親子が担当。

「確保って言ったって、森の湧き水か風車小屋の井戸でしょう?」

「トンカ、あんた木を切っちゃ駄目よ!そんな事したら、只じゃ措かないよ」

他の村人達も、各々の家を補強強化する事となった。

「家の補強ったって、どうすりゃいいのさ」

普段の仕事を続けながらの作業となる。気の遠くなるような作業である。
またゼファーには電力の確保を考案してもらう事とした。
からくり人形の為である。
そのゼファーは今、秘密の洞窟にて、フィズリーと共に、ジードの回復を待っていた。

「早く、目を覚まして」

崖に激突しめり込んでいたジードを、村の男達で助け出した時には気を失っており、風車小屋に運んだのだが、なかなか目を覚まさず洞窟のカプセルに再び投入したのである。
天才からくり技師の感が、そうさせたのであった。
ゼファーはフィズリーに事の真相を聞いていた。

「あれほど激しくぶつっかっておいて、怪我ひとつ無いとは」

「風の使い方を何とかしないと、我が身が危ないのぉ」

今回は黒い霧状のナノマシンが噴出しても、なかなか終了しない。

「何だ?怪我もしとらんというのに、なぜこんなに時間がかかるんだ」

電力の復旧を気にしているゼファーは、時間を惜しんでいた。
ゼファーにとって電気とは、単にからくり人形のエネルギーに有らず。
今日を生きるための食料となる素材であった。
つまり、からくり技師としての修理だけでの収入の他、電力の供給によっても、収入を得ていたという事だ。
電力が復活しないとなると、当然の如くからくり人形を修理する必要をなくす。
当然、無収入になってしまうのだ。
ゼファーにとっては、襲撃退策より目の前の電力確保が重要であった。
なかなか回復を見せないジードに、多少苛立ちを覚え、

「洞窟内の土を自由に使って良いから」

という条件のもと、フィズリーにジードの見張りを頼んで自宅に戻った。

「ずるーい」

大人の取引は恐い。
強い意志も、状況によって簡単に転ぶことを知るフィズリーであった。
そのころ村の広場では、村人が集まっていた。
イザーク村防衛のために、組織化しようというのだ。
ノーグの奥さんのマカは鎌を持ち、長男のツーチと次男坊のタネンと娘のナエは熊手を持ち、ノーグの母のクワは鍬(くわ)を持ち。
羊飼いのメイは鞭を持ち、服屋のジャンパ夫婦は鋏を持ち、食堂のタニヤはお玉を持ち、養鶏業のチャンボはスコップを持ち、おまけに鶏のスザンヌさんと辰巳さんまでが、羽をバタバタさせて参加していた。
後にスザンヌさんと辰巳さんは語る。

「命の重さに、人間と鶏の差があろうか」と。

だが、鶏が人間の食料となっていることを、知らなかった。
皆、農作業や料理などの身近で武器になりそうな物を手にしていた。
武具の製作を待たず、訓練を先行させようという事である。
そして、村に存在するからくり人形でさえ、これに参加していたのである。
村の防衛のためには、出来ることをすべてやろうという決意である。
皆で共に力を合わせようという意思は、考え方を大きく変えた。
今まで総称である“からくり人形”という呼び方だと、一固体を特定できなくなるので、それぞれに名称を付ける事としたのだ。

「お前ンとこのあれ、名前どうした」

「俺ンとこは、ウコッケイにしたよ」

「私ンとこは、キュウリにした」

「あたしんとこは、ニラタマにしたわよ」

理由はどうであれ、ゼファーの望みはひとつ達成した事となる。
鍛冶屋のハンマと大工のトンかは、高々と宣言する。

「我々の村は、我々の力で守ろう!!」

「我々の生活、未来を守ろう!!」

それぞれの武器なるものを、高々と上げ、

「エイッ、エイッ、オーーーーー!!!」×村の皆さん

小さい羽を大きく広げ、

「コケッ、コケッ、コケッコッコォーー!!」×鶏のスザンヌさんと辰巳さん

これが、イザーク自警団の誕生の瞬間である。
そこにはなぜか、異常に戦闘意欲を燃やした小さい見習い戦士がいた。
スプーンを持ったアプル。
フォークを持ったミイ。
お箸を持ったツーシャ。
仲良し三人組の5歳児であった。

「えい、えい、おー!!!」



からくり童子 第7話 始まりの刻 第49回 特訓の成果

ジードなりに、“ものすごぉーーい風”をイメージしていた。
ジードの体の周りで薄い層を成すように、ほんのり光りだす。
朝日を浴びて、肌がきらめいているようにも見えるが、それは確実にジードの体が発光していた。
フィズリーと仲良し三人組が、それに気付かぬぐらいの微妙な発光である。
そして、肩まで延びた黒い髪がふわりと持ち上がり、まるで風に揺られるようにたなびくと共に、白く変化していった。
次にジードの体が持ち上がるように、ゆっくりと宙に浮き始める。
かかとが離れ、今はつま先だけが地面に触れている状態だ。
フィズリーほどではないが、これがジードの“風の発動”の現象なのか。
そしてジードは、吸い込んだ空気を勢いよく吹き出した。

キィーーーーーーーーーーーンンン

高周波のような音が、周りに響く。

「うわわわわ」

「頭の中がぁー」

「キーンって、キーンってする!」

フィズリーと仲良し三人組は、耳をふさいでしゃがみこんでしまった。
風車小屋のガラス窓が小刻みに震えて、カタカタと音を出している。
その振動は徐々に大きくなり、粉々に砕け散ってしまった。
ジードが吹き出した空気は、細くて鋭い風であった。
それは弾丸の如く打ち出されたようで、煙の混ざった朝霧を切るような鋭さで、村の中を飛ぶ。
あっという間にイザークの村の入り口を抜けた。
村の入り口を抜けたとたん、朝日で温まりだした荒野の空気を巻き込む。
それは、徐々に大きな強い風となり、更には地表の砂さえ巻き込んで、巨大な大きさに成長していった。
まるで少年が打ち出した、空筒砲の空気弾のようである。
いや、ジードが打ち出した風は、それをはるかに超えていた。
横に走る竜巻の如く進んで行き、イザークの村より遥遠くにある森にまで達していた。

ズドーーーーン!!ズズズズズ!

木々をなぎ払い、モンスターを蹴散らし、風は森をえぐるように直撃した。
その砂埃は、イザークの村から見えるほど立ち昇る。
フィズリーと仲良し三人組は言葉を発する事無く、口をあんぐりと開け、遥向こうに立ち昇る砂埃を見つめている。

「おー、すごい」

「やっぱりお化けだよ」

「頭がキンキン」

三人組は、それぞれの思いを口に出していたが、森1つを吹き飛ばしたという重大な事には無関心であった。

「 お 化 け だ ね 」

フィズリーも、思わず口に出していた。
自分にも不思議な現象が起きていることを、フィズリーは知らない。
その最中、ジードの体はつま先が地面から離れて、今は完全に宙に浮いていた。

「あわわわわ」

踏みしめる大地に足が届かず、慌てふためくジード。
身動きは取れるが平衡感覚を失い、空をつかむようなその動きは、慌てているジードにとって、まるで船酔いでもしている感覚に落ちて、気持ちの良いものではない。

「ああ~、浮いてる~」

「お化けだ、お化け」

仲良し三人組は、もうジードを人間と思う事なく、お化けであると確信している。
そのせいか、この現象を当たり前のように捉えていた。

「ジード、どうしたの」

フィズリーはこの不思議な現象を捉えつつも、ジードの状態の異常さに心配して声をかけた。
が、ジードは答えない。

「ジード!!」「ジード!」「ジード…」「………」

何度も声をかけるが答えない。
それもそのはず、ジードは徐々に意識が薄らいでいた。
そして瞼を閉じ、完全に意識がとんだ。
意識が無くなった事により、風を吹き出す力に抵抗できなくなったジードは、そのまま真後ろにヒューンと飛んでいってしまった。

「ジード!!!」

遠ざかって行くジードに叫ぶフィズリー。

ズドーーン

風車小屋を横切り、近くの崖に激突し、めり込んでしまった。
その衝撃は、話し合いをしていたタニヤの店にいる村人達にも、振動となって届く。
立っていた者は転び、座っていた者は椅子ごと転倒してしまった。
椅子を戻し、立ち上がって辺りを伺うゼファー。

「なんだ、今の地響きは?」

村人は一斉に店の外に出て、周囲を伺う。
村人の目に映るのは、ジードの風で破壊された森の砂埃と、風車小屋の前で立ちすくんでいる4人であった。

「何だ、あれは」

今まで見たこと無い砂埃に、愕然となる村人達。
ゼファー・羊飼いのメイ夫婦・果物屋のツールフ夫婦・服屋のジャンパ夫婦は、子供たちに駆け寄る。

「何があった」

ゼファーはフィズリーに声をかけた。
フィズリーは崖を指差して、

「ジードが埋まっちゃった」

ゼファーが見ると、崖の形が変わるほどの状態で、ジードがめり込んでいるのがわかる。

「な、何で?」


からくり童子 第7話 始まりの刻 第48回 秘密の特訓

イザークの村は、いつもと変わらぬ心地よい朝を迎えていた。
村の中央にある広場には、昨夜のかがり火がわずかに残っている。
その煙は朝霧に混じり、もやもやと村の中を漂っていた。
盗賊やモンスターの侵入は無かったらしく、比較的穏やかな朝である。
いつもこの時間になると、広場には幾人かの人が行きかうのだが、今日はそれどころではなかった。
村人はタニヤの食堂に集まり、騒然としている。
風が止んだ今、様々な問題が発生するであろう。
これから先、どう対策をとるかで議論していたのだ。
イザークの村は、切り立った山からクワガタムシの角のように伸びた崖で、囲まれている。
その両角の先端、開いた部分が村の入り口になっている。
村に出入りする箇所は、そこだけだ。
当然、その入り口を守備できれば侵入を防ぐことが出来る。
だが、村人には戦うための武器も無ければ、技もない。
門を警備しても、今の状態では防衛できない。
また、風が止んだことにより、風車が回らない。
風車が回らなければ、電気を作れない。
イザーク村では生活自体に電気を使っていなかったので、その影響は無いように思われる。
しかし、電気はからくり人形に使われている。
バッテリーこそあるが、いずれは動かなくなってしまう。
結果、働き手が減ってしまうのだ。
その話し合いの中に、ジードはいない。
一晩過ぎて、村人は落ち着きを取り戻し、そして考えた。
その結果、(人間であるはずのジードに風を起こせるはずは無い)という結論を、各々がごく自然に出していた。
ジードがからくり童子ではないかという疑問は、ゼファーの心の内に閉まってあったからだ。
そのジードは、フィズリーや仲良し三人組と共に風車小屋の前にいた。
なにやら、秘密の特訓をしているようだ。

「ちがうよー。こうやって吹くんだよぉ」

体を前かがみにし、ロウソクの火でも消すかのように口を尖らせ、息を吹くフィズリー。

「こうだよ、こうだよ」

仲良し三人組も、フィズリーの真似をして息を吹いていた。
それを真似してジードも吹く。

ブウー

「ちがうって、音鳴らしてるだけだよ。もおぅ、こうやるの」

もう何度も同じようなことを繰り返しているが、思うように吹けないジード。
仲良し三人組は、からかい気味にジードに言う。

「だめねー」

「こんな事も出来ないの」

「風のお化けなのにさっ」

仲良し三人組は、ジードが風のお化けだと信じている。
口からものすごい風を出せると考えている。
だが、なかなか出来ないジードに、興味が薄れてきていた。
三人組の中で、花に興味があるアプルが、フィズリーに質問した。

「おねえちゃん、今日はお花の種は蒔かないの?」

そう、今日は種を蒔いていなかった。
明け方から、ジードの秘密の特訓をしていたのだ。
いつもなら、花の種を手の平いっぱいにして、イザークの村の中を駆け回っているはずのフィズリーに、疑問を感じていた。
当然、フィズリーに興味が移る。
ミイもツーシャもフィズリーの傍によってきて言葉を待つ。

「うーん、それがね、今日はお花の種が無いの」

「どうして?」

「うーん、わからない」

フィズリーが目を覚ましたとき、いつもなら枕元に沢山の花の種があるのだが、今日はどこを探しても見つからなかったのである。
ゼファーに聞こうにも、話し合いで不在だった。
4人の会話を聞きながら、覗き込むようにしてジードは言う。

「風って何?」

「えっー!!!、風を知らないの?」×3

みんなが知ってる風を、ジードは知らない。
小さい子供だって知ってるのに、ジードは知らない。
一瞬にして、仲良し三人組の興味は、ジードに戻った。
フィズリーと言えば、(今さら何を)という感じで呆れていた。

「ジードは風のお化けなのに、知らないの?」

三人組の中で一番陽気な羊飼いの娘、ミイが不思議そうに語りかける。

「ジードはお化けじゃないのよ」

フィズリーが諭すようにして言うが、仲良し三人組は一斉にジードを指差して、

「お化けだもん!!!」×3

元気よく言い切った。
そもそもジードは風を知らなかった。
ガラクタ山で発生させていたであろう風は、ジードの無意識の中で行っていたと思われる。
ここで、フィズリーの現象を思い出して欲しい。
植物図鑑を眺めていたフィズリーは、チューリップを見て、(この花が咲いたらいいなあ)と思うようになった。
そしてその夜、フィズリーの思いは青白い光の現象となって、種を生み出す事となった。
昨日はどうであろう。
昨日の夜の騒ぎで、フィズリーは植物図鑑を見ている場合ではなかった。
花のことを考えていなかったのである。
それゆえに、種を生み出すことが出来なかったのかもしれない。
つまり、強い思いが現象を引き起こすことになったのであろう。
ジードは風を知らない。
知らないがゆえに、風が起きないのである。

「風ってねえ、…………うーーんと、うーーんと」

フィズリーはかぜの説明をしようと懸命になる。
が、いくら考えても答えが見つからない。
そりゃあそうだろう、風は形のあるものではない。
説明するのは難しいし、イメージするのはもっと難しい。
それを見ていた仲良し三人組は

「風はこんなんだよ」

と言いながら、ジードの頬に向けて、息を吹きかけた。

「これのもっともっとすごおーーーいやつ」

すごおーーいを、腕を大きく広げて表現する三人組。
ジードは、頬をさわりながらイメージを試みた。

「わかったーぁ?」

仲良し三人組はジードに詰め寄る。

「こうかな」

口を尖らせ前かがみになって、息を吹く。

フー

上手くイメージできたのか、吹く息が風となった。
ところがそれは、三人組の顔が歪むぐらいの風圧であった。

「すごーーい」

「やっぱり、お化け!!」

三人組は大はしゃぎで喜ぶ。

「そう、そう、そんな感じ」

「それのもっと、もぉーっと、すごおーーいやつ」

再び、すごおーーいを、腕を大きく広げて表現する三人組。
ジードが風のお化けだと信じている仲良し三人組にとっては、今の風でも満足できない。
村中を駆け巡るほどの、大きな風をイメージしている。

「今度はふーって、おもいっきり吹いて」

服屋のジャンパの娘、ツーシャが提案する。

「わかった」

ジードはそう言うと、前かがみになって口を尖らせ、手を握り締め拳を作り、腰を落として体勢を取る。
そして、おもいっきり空気を吸い込んだ。
今日のわんこ
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