Category | 08 少年の夢
からくり童子 風のジード
第8話 少年の夢
第8話 少年の夢
第60回 カタナの夢
ゼファーの風車小屋では、今までの不行状を白柴のヘンドリーことジョグに説教されて、うな垂れている少年カタナがいた。
「そう言やぁ、カタナ。お前さん、わしに会うために旅をして来たと言っとったなぁ」
新しい空筒砲の設計図面をひきながら、カタナに問いかけた。
これはジョグに説教されているカタナに、助け舟を出す事にも繋がった。
「あっ、そうだった、忘れてた。俺な、夢を叶える為に来たんだ」
「夢?」
「そうさ、空飛ぶからくり箱を造りたいんだ」
「空飛ぶからくり箱………飛空艇の事か」
「飛空艇?」
「空飛ぶ乗り物じゃ」
「そうか、飛空艇か。その飛空艇で、世界を飛び回りたいんだ」
「フッ」
「今、フッて鼻で笑ったか。俺を馬鹿だと思ったろう」
「いや、そうじゃない。夢を語る、誰もがそうじゃ。だがな、その若さで逸早く行動に移した事は、たいしたもんじゃと思うとる。大抵は口にするだけで、行動する事も無く、人生を終える者が多いからな。それに、からくり屋の倅はやっぱり、からくり屋だと思ってな」
「……行動に移したって言っても、どうして良いか分からず、それを教えてもらおうと思って来ただけだよ」
「それで、ラグーンから1,000㎞も離れたイザークに旅するか?ふつう」
「まぁ、そう言われりゃそうだけど」
「まぁ、天才からくり技師たるこのわしに、教えを乞おうとはナイスチョイスじゃが、ラグーンにもからくり技師は、お前さんの父親の他にも数人いるだろう。何故わしの所にやって来た?」
「ラグーンは、地下に保管されてたからくり人形を、引き上げて使ってるだけだし、からくり技師って言ったって、ただの修理屋に過ぎないのさ。その点ゼファーはからくりを発掘して、壊れてるところを直して使えるようにしてるんだろう」
「それを修理といわんか?」
「小さい時に見たんだ。ラグーンの町に行商人のショーバが着た時、“ホーバー”を」
「砂の上を、ものすごいスピードで移動してた。鶏よりも早かったよ」
「あぁ、あれか」
「ホーバーはゼファーが作ったって言ってたんだ。そうなんだろう」
「まぁ、それはそうじゃが」
「なっ、あんなのラグーンの町に作れる奴なんて、いないよ」
「お前さんの父親なら作れるだろう」
「駄目さ、親父も只の修理屋さ」
「…………。ホーバーはな、上面から空気を吸い込んで圧縮し、下面から少しづつ吹き出させてやる事で、浮いておる。その装置を設計したのは、カタナ、お前さんの父親じゃぞ」
「どうして親父が、さっきは名前を知ってるぐらいにしか言わなかったのに」
「まぁ、色々とな。ところで、自分の父親の夢を知っているか?」
「いや、聞いたことない」
「どうせ、父親とろくに話しもしておらんのじゃろう」
「あぁ、そう言われれば。いつも怒ってばっかいるからさ」
「当たり前だろう。親というのはな、子供を一人前になって欲しいという願いで、怒ることもある」
「バルカン=ギブソンの夢はな、人工的に水を作ることじゃ」
「みず?水なんて、そこら中にあるだろう」
「今はな。だが、地下から水を汲み上げるのも、将来的には不可能になるじゃろう」
「この惑星は、1,000年前の異常現象で大気さえ変動させてしまった。その結果、あまり雨も降らん状態になっておる。このままでは、いずれ水は枯渇すると考えたバルカンは、人工的に水を作り、世界中に届けることを考えた。それがあいつの夢じゃ」
「そんな大それた事、本当に考えているのかぁ」
「現に見てみろ、自分の水筒を」
「そんな水筒1つで、ようもここまで辿り着けたもんじゃ」
「この水筒に何かあるのか」
「気付かんのか。その大きさにしては、大分重いと思わんか?」
「厚みのある良い合金でも使ってるからじゃないか」
「その水筒は、外気温と比べると大分冷たいと思わなんだか?」
「合金を二重張りにして、保温性を高めてるんじゃないか」
「水筒の大きさに対し、入る水の量が少なすぎると思わんか?」
「……、それは、確かに思う」
「入れた量に対して、飲む量は多くなかったか?」
「おぉう、確かに」
「おそらく、水筒の底に機巧装置が組み込まれているのであろう」
「水を圧縮してるのか?」
「いや、水は圧縮できんよ」
「つまりじゃな、バルカンの夢が現実の物となったと言う事だ」
「水を作り出してるという事か」
「そうじゃ、それも水筒の底に仕込める程に小型化し、しかもかなりの衝撃に耐えられる構造になっとるはずじゃ」
「親父からは、何も聞いてなかったぜ」
「話が元に戻りそうだな」
「でも、それって本当かな。全然気付かなかったけど」
「気付かぬほどに少しづつ、水が作り出されるようにしてあるのではないか」
「何でそんな事する必要があるんだ。水が作れるなら、一気に出たほうが良いだろう」
「水筒に仕込むほどの物だ、たいした量でもあるまい。少しづつ作り出す事によって、長期間使えるようにしたんじゃろう。もしかすると、お前さんがわしの所に来る事が、わかっておったかも知れんぞ」
「本当にそんな装置が仕込まれているのか、解体して調べてみる」
「よせ、下手な解体をすれば、爆発する可能性もあるぞ」
「バクハツ?そんなもん、子供に持たせるわけないだろう」
「普通に使う分には問題なくても、解体は別じゃ。わしが思うような仕組みであれば、その可能性もあるという事じゃ」
「親父って、すごいんだな。ゼファーより天才かも」
「何を言う、バルカンは2番目じゃ。天才からくり技師のこのゼファーが、1番じゃ」
「その天才さんに質問。飛空艇は作れるか」
「わからん、1000年前と同じものと言われれば無理じゃが、空を飛ぶ理屈なら多少はあるつもりじゃ」
「じゃぁ、作ってくれ」
「駄目じゃ、自分の夢は自分で達成してこそ、意義がある。教えてやるから、自分で作るんじゃ」
「その代わり、わしの手伝いをしながらじゃな」
「よし、わかった。何をやれば良い」
「まあ待て、仕事は明日からじゃ。今日は、ゆっくり休んどけ」
「そう言やぁ、カタナ。お前さん、わしに会うために旅をして来たと言っとったなぁ」
新しい空筒砲の設計図面をひきながら、カタナに問いかけた。
これはジョグに説教されているカタナに、助け舟を出す事にも繋がった。
「あっ、そうだった、忘れてた。俺な、夢を叶える為に来たんだ」
「夢?」
「そうさ、空飛ぶからくり箱を造りたいんだ」
「空飛ぶからくり箱………飛空艇の事か」
「飛空艇?」
「空飛ぶ乗り物じゃ」
「そうか、飛空艇か。その飛空艇で、世界を飛び回りたいんだ」
「フッ」
「今、フッて鼻で笑ったか。俺を馬鹿だと思ったろう」
「いや、そうじゃない。夢を語る、誰もがそうじゃ。だがな、その若さで逸早く行動に移した事は、たいしたもんじゃと思うとる。大抵は口にするだけで、行動する事も無く、人生を終える者が多いからな。それに、からくり屋の倅はやっぱり、からくり屋だと思ってな」
「……行動に移したって言っても、どうして良いか分からず、それを教えてもらおうと思って来ただけだよ」
「それで、ラグーンから1,000㎞も離れたイザークに旅するか?ふつう」
「まぁ、そう言われりゃそうだけど」
「まぁ、天才からくり技師たるこのわしに、教えを乞おうとはナイスチョイスじゃが、ラグーンにもからくり技師は、お前さんの父親の他にも数人いるだろう。何故わしの所にやって来た?」
「ラグーンは、地下に保管されてたからくり人形を、引き上げて使ってるだけだし、からくり技師って言ったって、ただの修理屋に過ぎないのさ。その点ゼファーはからくりを発掘して、壊れてるところを直して使えるようにしてるんだろう」
「それを修理といわんか?」
「小さい時に見たんだ。ラグーンの町に行商人のショーバが着た時、“ホーバー”を」
「砂の上を、ものすごいスピードで移動してた。鶏よりも早かったよ」
「あぁ、あれか」
「ホーバーはゼファーが作ったって言ってたんだ。そうなんだろう」
「まぁ、それはそうじゃが」
「なっ、あんなのラグーンの町に作れる奴なんて、いないよ」
「お前さんの父親なら作れるだろう」
「駄目さ、親父も只の修理屋さ」
「…………。ホーバーはな、上面から空気を吸い込んで圧縮し、下面から少しづつ吹き出させてやる事で、浮いておる。その装置を設計したのは、カタナ、お前さんの父親じゃぞ」
「どうして親父が、さっきは名前を知ってるぐらいにしか言わなかったのに」
「まぁ、色々とな。ところで、自分の父親の夢を知っているか?」
「いや、聞いたことない」
「どうせ、父親とろくに話しもしておらんのじゃろう」
「あぁ、そう言われれば。いつも怒ってばっかいるからさ」
「当たり前だろう。親というのはな、子供を一人前になって欲しいという願いで、怒ることもある」
「バルカン=ギブソンの夢はな、人工的に水を作ることじゃ」
「みず?水なんて、そこら中にあるだろう」
「今はな。だが、地下から水を汲み上げるのも、将来的には不可能になるじゃろう」
「この惑星は、1,000年前の異常現象で大気さえ変動させてしまった。その結果、あまり雨も降らん状態になっておる。このままでは、いずれ水は枯渇すると考えたバルカンは、人工的に水を作り、世界中に届けることを考えた。それがあいつの夢じゃ」
「そんな大それた事、本当に考えているのかぁ」
「現に見てみろ、自分の水筒を」
「そんな水筒1つで、ようもここまで辿り着けたもんじゃ」
「この水筒に何かあるのか」
「気付かんのか。その大きさにしては、大分重いと思わんか?」
「厚みのある良い合金でも使ってるからじゃないか」
「その水筒は、外気温と比べると大分冷たいと思わなんだか?」
「合金を二重張りにして、保温性を高めてるんじゃないか」
「水筒の大きさに対し、入る水の量が少なすぎると思わんか?」
「……、それは、確かに思う」
「入れた量に対して、飲む量は多くなかったか?」
「おぉう、確かに」
「おそらく、水筒の底に機巧装置が組み込まれているのであろう」
「水を圧縮してるのか?」
「いや、水は圧縮できんよ」
「つまりじゃな、バルカンの夢が現実の物となったと言う事だ」
「水を作り出してるという事か」
「そうじゃ、それも水筒の底に仕込める程に小型化し、しかもかなりの衝撃に耐えられる構造になっとるはずじゃ」
「親父からは、何も聞いてなかったぜ」
「話が元に戻りそうだな」
「でも、それって本当かな。全然気付かなかったけど」
「気付かぬほどに少しづつ、水が作り出されるようにしてあるのではないか」
「何でそんな事する必要があるんだ。水が作れるなら、一気に出たほうが良いだろう」
「水筒に仕込むほどの物だ、たいした量でもあるまい。少しづつ作り出す事によって、長期間使えるようにしたんじゃろう。もしかすると、お前さんがわしの所に来る事が、わかっておったかも知れんぞ」
「本当にそんな装置が仕込まれているのか、解体して調べてみる」
「よせ、下手な解体をすれば、爆発する可能性もあるぞ」
「バクハツ?そんなもん、子供に持たせるわけないだろう」
「普通に使う分には問題なくても、解体は別じゃ。わしが思うような仕組みであれば、その可能性もあるという事じゃ」
「親父って、すごいんだな。ゼファーより天才かも」
「何を言う、バルカンは2番目じゃ。天才からくり技師のこのゼファーが、1番じゃ」
「その天才さんに質問。飛空艇は作れるか」
「わからん、1000年前と同じものと言われれば無理じゃが、空を飛ぶ理屈なら多少はあるつもりじゃ」
「じゃぁ、作ってくれ」
「駄目じゃ、自分の夢は自分で達成してこそ、意義がある。教えてやるから、自分で作るんじゃ」
「その代わり、わしの手伝いをしながらじゃな」
「よし、わかった。何をやれば良い」
「まあ待て、仕事は明日からじゃ。今日は、ゆっくり休んどけ」
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第8話 少年の夢
第59回 ジードの記憶
今、フィズリーは秘密の洞窟にて、ジードの回復を待っていた。
というより、洞窟内の土を自由に使って良いと言うゼファーとの約束により、フィズリーは洞窟内に種蒔きをしていた。
あの青白い光の中で、花の種を生み出す不思議な現象は、今も起きていたのである。
ジードが気を失ってから今日まで、フィズリーにとってはいつもと変わらぬ日々が過ぎていた。
洞窟内にいたフィズリーには、今日モンスターの襲撃があった事さえ知らない。
ジードが気を失ってから、実に5日が経過している。
今だにカプセルの中には、ナノマシンが充満しており、ジードの姿を確認することが出来ない。
ジードは今、夢を見ていた。
いや、夢と言っていいのか定かではないが。
そこは、黒い霧が漂う空間であった。
ジードの視点の先には、2人の少年がいた。
1人は白く輝き、もう1人は黒く輝いていた。
その2人の少年は、色を除けば同じ顔、同じ姿をしている。
「お前は何を望む」
白く輝く少年が、黒く輝く少年に問う。
「私は、この世の破壊を望む。お前は何を望む」
今度は黒く輝く少年が、白く輝く少年に問う。
「私は、この世の創造を望む」
「笑止、この世は既に既に存在している。今さら創造の必要なし」
「否、創造は日々の営みの中にこそ、必要」
2人の少年の問答は暫く続いたが、黒く輝く少年の行動により、戦いへと移っていった。
黒く輝く少年は空間に漂う黒い霧を一点に凝縮し、白く輝く少年にぶつける。
白く輝く少年は風を生み出し、それをシールド状に変化させ、払いのける。
黒く輝く少年は黒い霧を発生すると、それを凝縮して3個の玉を形成した。
そして、白く輝く少年に向けて解き放つ。
1つ目で白く輝く少年のシールドをはじき、2個の玉が白く輝く少年の体に激突する瞬間、かろうじて避けた。
黒く輝く少年は、続けて極大の黒い玉を形成。
それを、白く輝く少年にぶつける。
大きすぎて避けきらない、白く輝く少年。
黒い玉は白く輝く少年を呑み込み、侵食を開始する。
白く輝く少年は、自らの体を包み込むようにして風を発生させるも、既に侵食した黒い霧に阻まれ、風は吹き飛ばされてしまう。
黒く輝く少年は、即座に弾丸状の玉を無数に発生させ、打ち出した。
もはや、風のシールドでは防げないと悟った白く輝く少年は、上空に身をかわそうとするが、黒い霧に浸食されている体では思うように動けず、下半身に無数の黒い弾丸は直撃し、吹き飛んでしまった。
下半身を失くし、上半身の大部分が破壊された白く輝く少年。
その下腹部には機械構造体が露出し、オイルとも思えぬ、血とも思えぬ赤い液体が噴出していた。
「もう、その姿では何も出来まい。これから私が行う様を見ているが良い。破壊こそが創造の糧だ」
黒く輝く少年は、そう言い放つと忽然と消えた。
白く輝く少年は下半身を失いながらも、右腕のみを使って自分の体を引きずり、ジードに向かってくる。
白く輝く少年は右手を伸ばすと、白い光がジードの目の前に広がった。
そしてひとつの夢が終わり、また、ひとつの夢が始まった。
そこには、8人の子供達がいた。
その子供達は体全体が光り輝き、黒い渦を巻いた霧の中で空中をグルグルと回っていた。
意識はなく、ぐったりとしている。
いや、1人だけ意識を持った者がいる。
青く輝く女の子である。
「あなたは、何者です」
その女の子は、誰ともなく黒い霧を見つめていた。
「私は………ジード。破壊をもたらす者だ」
「ジードじゃない。あなたはジードの体を奪った者。あなたは誰です」
「漆黒のライブジェム、風のジードだ」
黒い渦を巻いた霧は、その速度を速めて更に回りだした。
「我が思念に染まれ」
そしてひとつの夢が終わり、また、ひとつの夢が始まった。
目の前には、白い髪に白い髭、白い衣服を身にまとった科学者らしき人物がいた。
ジードの顔を覗き込みながら、語りかけてくる。
その顔や頭には相当数の怪我をしているのか、出血していた。
「お前が最後の希望だ」
「頼む、私の過ちを正して欲しい」
そしてひとつの夢が終わり、また、ひとつの夢が始まった。
目の前には、透明の物体があった。
ソフトボールくらいの大きさであり、その物体の向こうに男の顔があり、ワイドになって間抜けに見えた。
その物体の中心には、宇宙のような無数の星があり、その星の輝きは虹色の光と共に物体の周囲にまで広がっていた。
「これは、ライブジェムのコアじゃと、わしは考えておる。これを、お前に取り付けるぞ」
取り付けられた瞬間、目の感覚しか持たなかったジードは、全身に感覚を感じるようになった。
そしてひとつの夢が終わり、また、ひとつの夢が始まった。
そこは、何も見えなかった。
が、声だけは聞こえてくる。
「直ぐに、見えるようにしてやるからな」
パチッと火花が飛ぶような音がして、辺りが少しづつ明るくなっていく。
はっきりと見えるようになった時、
「わしが、分かるか」
と、白衣の男が目の前に立っていた。
ジードは、目をキョロキョロさせた。
そして、目線を下に向けた時、機械が露出した自分の体を見た。
「これから、人工皮膚を着けてやるからな」
「お前を、任下と何ら変わらぬ姿にしてやるぞ」
そしてひとつの夢が終わり、また、ひとつの夢が始まった。
目の前には、8つのカプセルがあった。
そのカプセルの中には、それぞれに8人の子供達がいた。
白衣の男が、カプセルのふたを開ける。
子供達は目を覚まして起きた。
白衣の男は驚き、子供達の髪を触ったり、目を覗き見したりしている。
「何と、髪と目の色が変わっとる」
その声を聞いた子供達は、自分の髪をかき上げたり、目の前に持ってきて見たり、お互いの目の色を確認したりしていた。
「何と、動きまでが滑らかではないか。これが、ライブジェムの力なのか」
子供達の中で、緑色の髪をし茶色の目をした女の子が、白衣の男に向かって言った。
「何を驚いているの、ドクターゼファー」
そして、夢が終わった。
いや、夢と言っていいのか定かではないが。
カプセルのナノマシンはジードの記憶を回復しているのか、それとも只の夢なのか。
「今日も目を覚まさないね」
フィズリーはそう言うと、
「また来るね」
と自宅に戻って行った。
というより、洞窟内の土を自由に使って良いと言うゼファーとの約束により、フィズリーは洞窟内に種蒔きをしていた。
あの青白い光の中で、花の種を生み出す不思議な現象は、今も起きていたのである。
ジードが気を失ってから今日まで、フィズリーにとってはいつもと変わらぬ日々が過ぎていた。
洞窟内にいたフィズリーには、今日モンスターの襲撃があった事さえ知らない。
ジードが気を失ってから、実に5日が経過している。
今だにカプセルの中には、ナノマシンが充満しており、ジードの姿を確認することが出来ない。
ジードは今、夢を見ていた。
いや、夢と言っていいのか定かではないが。
そこは、黒い霧が漂う空間であった。
ジードの視点の先には、2人の少年がいた。
1人は白く輝き、もう1人は黒く輝いていた。
その2人の少年は、色を除けば同じ顔、同じ姿をしている。
「お前は何を望む」
白く輝く少年が、黒く輝く少年に問う。
「私は、この世の破壊を望む。お前は何を望む」
今度は黒く輝く少年が、白く輝く少年に問う。
「私は、この世の創造を望む」
「笑止、この世は既に既に存在している。今さら創造の必要なし」
「否、創造は日々の営みの中にこそ、必要」
2人の少年の問答は暫く続いたが、黒く輝く少年の行動により、戦いへと移っていった。
黒く輝く少年は空間に漂う黒い霧を一点に凝縮し、白く輝く少年にぶつける。
白く輝く少年は風を生み出し、それをシールド状に変化させ、払いのける。
黒く輝く少年は黒い霧を発生すると、それを凝縮して3個の玉を形成した。
そして、白く輝く少年に向けて解き放つ。
1つ目で白く輝く少年のシールドをはじき、2個の玉が白く輝く少年の体に激突する瞬間、かろうじて避けた。
黒く輝く少年は、続けて極大の黒い玉を形成。
それを、白く輝く少年にぶつける。
大きすぎて避けきらない、白く輝く少年。
黒い玉は白く輝く少年を呑み込み、侵食を開始する。
白く輝く少年は、自らの体を包み込むようにして風を発生させるも、既に侵食した黒い霧に阻まれ、風は吹き飛ばされてしまう。
黒く輝く少年は、即座に弾丸状の玉を無数に発生させ、打ち出した。
もはや、風のシールドでは防げないと悟った白く輝く少年は、上空に身をかわそうとするが、黒い霧に浸食されている体では思うように動けず、下半身に無数の黒い弾丸は直撃し、吹き飛んでしまった。
下半身を失くし、上半身の大部分が破壊された白く輝く少年。
その下腹部には機械構造体が露出し、オイルとも思えぬ、血とも思えぬ赤い液体が噴出していた。
「もう、その姿では何も出来まい。これから私が行う様を見ているが良い。破壊こそが創造の糧だ」
黒く輝く少年は、そう言い放つと忽然と消えた。
白く輝く少年は下半身を失いながらも、右腕のみを使って自分の体を引きずり、ジードに向かってくる。
白く輝く少年は右手を伸ばすと、白い光がジードの目の前に広がった。
そしてひとつの夢が終わり、また、ひとつの夢が始まった。
そこには、8人の子供達がいた。
その子供達は体全体が光り輝き、黒い渦を巻いた霧の中で空中をグルグルと回っていた。
意識はなく、ぐったりとしている。
いや、1人だけ意識を持った者がいる。
青く輝く女の子である。
「あなたは、何者です」
その女の子は、誰ともなく黒い霧を見つめていた。
「私は………ジード。破壊をもたらす者だ」
「ジードじゃない。あなたはジードの体を奪った者。あなたは誰です」
「漆黒のライブジェム、風のジードだ」
黒い渦を巻いた霧は、その速度を速めて更に回りだした。
「我が思念に染まれ」
そしてひとつの夢が終わり、また、ひとつの夢が始まった。
目の前には、白い髪に白い髭、白い衣服を身にまとった科学者らしき人物がいた。
ジードの顔を覗き込みながら、語りかけてくる。
その顔や頭には相当数の怪我をしているのか、出血していた。
「お前が最後の希望だ」
「頼む、私の過ちを正して欲しい」
そしてひとつの夢が終わり、また、ひとつの夢が始まった。
目の前には、透明の物体があった。
ソフトボールくらいの大きさであり、その物体の向こうに男の顔があり、ワイドになって間抜けに見えた。
その物体の中心には、宇宙のような無数の星があり、その星の輝きは虹色の光と共に物体の周囲にまで広がっていた。
「これは、ライブジェムのコアじゃと、わしは考えておる。これを、お前に取り付けるぞ」
取り付けられた瞬間、目の感覚しか持たなかったジードは、全身に感覚を感じるようになった。
そしてひとつの夢が終わり、また、ひとつの夢が始まった。
そこは、何も見えなかった。
が、声だけは聞こえてくる。
「直ぐに、見えるようにしてやるからな」
パチッと火花が飛ぶような音がして、辺りが少しづつ明るくなっていく。
はっきりと見えるようになった時、
「わしが、分かるか」
と、白衣の男が目の前に立っていた。
ジードは、目をキョロキョロさせた。
そして、目線を下に向けた時、機械が露出した自分の体を見た。
「これから、人工皮膚を着けてやるからな」
「お前を、任下と何ら変わらぬ姿にしてやるぞ」
そしてひとつの夢が終わり、また、ひとつの夢が始まった。
目の前には、8つのカプセルがあった。
そのカプセルの中には、それぞれに8人の子供達がいた。
白衣の男が、カプセルのふたを開ける。
子供達は目を覚まして起きた。
白衣の男は驚き、子供達の髪を触ったり、目を覗き見したりしている。
「何と、髪と目の色が変わっとる」
その声を聞いた子供達は、自分の髪をかき上げたり、目の前に持ってきて見たり、お互いの目の色を確認したりしていた。
「何と、動きまでが滑らかではないか。これが、ライブジェムの力なのか」
子供達の中で、緑色の髪をし茶色の目をした女の子が、白衣の男に向かって言った。
「何を驚いているの、ドクターゼファー」
そして、夢が終わった。
いや、夢と言っていいのか定かではないが。
カプセルのナノマシンはジードの記憶を回復しているのか、それとも只の夢なのか。
「今日も目を覚まさないね」
フィズリーはそう言うと、
「また来るね」
と自宅に戻って行った。
第8話 少年の夢
第58回 イザークとモザーク
イザークの村にやって来たモザーク自警団は、タニヤの食堂に村人を集め、自己紹介を終えていた。
イザーク自警団の発足後、準備も整わない内に巨大なモンスターが襲ってきたのだ。
みんな真剣である。
以前の村人会議と違い、静まり返ってモザーク自警団の言葉を、一語も逃さぬ覚悟で聞いていた。
既にモンスターが襲ってきた以上、ゆっくりと策を論じている場合ではない。
体格の良い若者10人が、戦士としての特訓を受ける。
鍛冶屋のハンマと服屋のジャンパは、指導を受けながら武具の製作。
材料不足を見越して、鉄鉱石も運び込まれていた。
女達の中から何人かと、少数の男は医療技術を身に付ける事とした。
イザークの村には医者がおらず、ゼファーがある程度面倒見ていたのだが、やはりこれから戦いが多くなると予想され、専門医が必要とされた。
女性を中心に組織されたのだが、他地区への交流なども考え、男達にも医療の知識を持つ者を必要とした。
旅先で負傷した際の手当ての為である。
この男達には、軽く戦闘技術も身に着けてもらう事になる。
自分の身は自分で守る、という事だ。
また、モンスターや盗賊に対抗するための街づくりを必要とした。
これは、大工のトンカとモザークの村から来た石工のメイソンが中心となり、村人全員で行う事とした。
これはまず、石工のメイソンが村の現状を調査して、図案を作成する。
実際、人が住んでる中で行われる作業なので、イザークの村人の承認を受ける事にした。
大幅な計画を立案し、人員配分を済ませた後、イザークの村人は振り分けられた各チームごとに今後の計画を立てる事にした。
「あんたが鍛冶屋のハンマかい?」
モザーク自警団の中でも体格が良い、きりっとした顔付きの男が話しかけてきた。
「俺を覚えちゃいねえかなぁ」
30歳くらいであろうか、ちょっと渋みが入ったクールな男である。
戦士にも思えるような、引き締まった筋肉をしている。
ハンマはその男の顔をじっと見ていた。
ハンマがモザークの村を離れてから30年。
その間、モザークの村人との交流はなかった。
覚えているどころか、知らないはずである。
それでも、なぜか親しみの沸く顔をしていた。
「覚えちゃいねえか。あんときゃまだ、赤ん坊だったらしいからよ」
「赤ん坊……あっー!お前、政か!カヨさんちの政だろう!」
「そうよ!その政よ!いやぁ、やっとこさ思い出してくれたな。うれしいぜ、ぎりぎりって感じだったけどよ」
「当たり前だろう、会ったのは政が赤ん坊の時だぜ。しかし、あのちびっ子がデカくなったもんだぜ」
「俺だって人の子よ、30年もたちゃあ、こうもなるさ」
鍛冶屋のハンマと政は従兄弟である。
ハンマの父親には歳の離れた妹のカヨがいて、その息子が政である。
今ではモザーク村きっての鍛冶屋であり、その仕事振りから、仕事人鍛冶屋の政と呼ばれ親しまれていた。
カタナの黒光りのバスターソードなる牛刀を鍛えたのも、ジョグのカギ爪の仕込みを施したのも、政である。
「そうか、あの赤ん坊に教えを請うのか」
「ハハハ、性がねえよ。ハンマは今まで、日常の道具を作ってんだろう。そっちの方に関しちゃあ俺はど素人だが、武器に関しちゃ俺に分があるからよ」
「そうだなあ、この地に来てから武器のことなんか、考えた事もなかったからな」
「そういうことだ。まっ、直ぐに覚えるさ、基本は同じなんだからな。それに、血の繋がりがあるしよ」
「血の繋がりは、関係ないだろう」
「あるさ、全くの他人と身内では教えんのに熱の入り方が違う。身内だと情熱の炎を燃やして教えられるからな。鍛冶屋だけに」
「………」
「あれ、つまんなかったかい」
見た目は格好良い姿であるが、ジョークのセンスはないらしい。
「へぇー、二人は身内だったんだ」
と、モザーク自警団の女戦士グレープが話しかけてきた。
「あぁ、そうらしい。30年ぶりだからな、実感はないが」
鍛冶屋のハンマが言う。政はグレープに向かい、
「だから言ったろう。モザークとイザークは、身内みたいなもんだってな、ノーグやトンカだって、モザークの出だぜ。グレープだって、このイザークの村に身内が居るんだろう」
「あぁ、ルクアートとツールフとアプルとパインね」
この女戦士グレープと、果物屋のツールフの旦那であるルクアートとは、叔父と姪の関係であった。
グレープとアプルは従姉妹の関係になる。
「アプルっていやぁ、ちび三人組の子か。モンスターと戦うんだって、張り切ってたな」
「困ったもんだ。まだ、ちびのくせに。そんな事より、ハンマに聞きたいことがある。このイザークの村は荒野にありながら、モザークの村と違い、過し易い気温だし、それに植物も育ちが良い。なぜだ」
「あぁー、そんな事か。山の上に森があるだろう。森から湧き出た水が滝となって、貯水池に落ちる。するとな、水が熱を奪って周囲を涼しくさせるらしい。イザークの地形にも利点があって、モンスターや盗賊の侵入も阻んだ上に、村の涼しい気温を外に逃さないようになってるらしい。これはな、ゼファーの発案なんだぜ」
「ゼファー。カタナが会いたがっていた、あの物騒な爺さんか」
「おいおい、爺さんって言ったら怒るぜ。まだ、若いんだからよ」
「そうか、すまん」
「それで、植物は」
「それに関しちゃ、俺が言おう」
近くで、モザーク自警団のリーダー格の男と話しをしていたノーグが、声を掛けて来た。
「植物の育ちが良いのは、土のおかげなんだ。良質の土を散布して、少しづつ土へと変えていったんだよ。今では結構な量に増えてるからな。より多くの植物を育てられるようになったんだ。これも、ゼファーが開発したもんだがな。まっ、詳しくはゼファーに聞きな」
今度はモザーク自警団のリーダー格の男、パースが声を掛けて来た。
「ゼファーが、このイザークの村の村長なのか」
「村長?そんなもんは決めてはいないが、あえて言うなら、そうかな。最年長者だし、それに村を大きく豊かにしていったのは、ゼファーのおかげだからな」
「そんなに凄い人なのか」
「あぁ、見た目や性格を除けばな。風車を考えたのも、からくり人形を作ったのもゼファーだからな」「ほう、からくり人形か。モザークにはないからな、一度見てみたいもんだ」
「どこの家にもあるから、見ると良い」
こんなところで話しをしてても性がないだろうと、ノーグは提案した。
「そんならいっそ、ゼファー家にいってみるか」
「ちょっと風変わりなおっさんだが、あんまり気にするなよ」
イザーク自警団の発足後、準備も整わない内に巨大なモンスターが襲ってきたのだ。
みんな真剣である。
以前の村人会議と違い、静まり返ってモザーク自警団の言葉を、一語も逃さぬ覚悟で聞いていた。
既にモンスターが襲ってきた以上、ゆっくりと策を論じている場合ではない。
体格の良い若者10人が、戦士としての特訓を受ける。
鍛冶屋のハンマと服屋のジャンパは、指導を受けながら武具の製作。
材料不足を見越して、鉄鉱石も運び込まれていた。
女達の中から何人かと、少数の男は医療技術を身に付ける事とした。
イザークの村には医者がおらず、ゼファーがある程度面倒見ていたのだが、やはりこれから戦いが多くなると予想され、専門医が必要とされた。
女性を中心に組織されたのだが、他地区への交流なども考え、男達にも医療の知識を持つ者を必要とした。
旅先で負傷した際の手当ての為である。
この男達には、軽く戦闘技術も身に着けてもらう事になる。
自分の身は自分で守る、という事だ。
また、モンスターや盗賊に対抗するための街づくりを必要とした。
これは、大工のトンカとモザークの村から来た石工のメイソンが中心となり、村人全員で行う事とした。
これはまず、石工のメイソンが村の現状を調査して、図案を作成する。
実際、人が住んでる中で行われる作業なので、イザークの村人の承認を受ける事にした。
大幅な計画を立案し、人員配分を済ませた後、イザークの村人は振り分けられた各チームごとに今後の計画を立てる事にした。
「あんたが鍛冶屋のハンマかい?」
モザーク自警団の中でも体格が良い、きりっとした顔付きの男が話しかけてきた。
「俺を覚えちゃいねえかなぁ」
30歳くらいであろうか、ちょっと渋みが入ったクールな男である。
戦士にも思えるような、引き締まった筋肉をしている。
ハンマはその男の顔をじっと見ていた。
ハンマがモザークの村を離れてから30年。
その間、モザークの村人との交流はなかった。
覚えているどころか、知らないはずである。
それでも、なぜか親しみの沸く顔をしていた。
「覚えちゃいねえか。あんときゃまだ、赤ん坊だったらしいからよ」
「赤ん坊……あっー!お前、政か!カヨさんちの政だろう!」
「そうよ!その政よ!いやぁ、やっとこさ思い出してくれたな。うれしいぜ、ぎりぎりって感じだったけどよ」
「当たり前だろう、会ったのは政が赤ん坊の時だぜ。しかし、あのちびっ子がデカくなったもんだぜ」
「俺だって人の子よ、30年もたちゃあ、こうもなるさ」
鍛冶屋のハンマと政は従兄弟である。
ハンマの父親には歳の離れた妹のカヨがいて、その息子が政である。
今ではモザーク村きっての鍛冶屋であり、その仕事振りから、仕事人鍛冶屋の政と呼ばれ親しまれていた。
カタナの黒光りのバスターソードなる牛刀を鍛えたのも、ジョグのカギ爪の仕込みを施したのも、政である。
「そうか、あの赤ん坊に教えを請うのか」
「ハハハ、性がねえよ。ハンマは今まで、日常の道具を作ってんだろう。そっちの方に関しちゃあ俺はど素人だが、武器に関しちゃ俺に分があるからよ」
「そうだなあ、この地に来てから武器のことなんか、考えた事もなかったからな」
「そういうことだ。まっ、直ぐに覚えるさ、基本は同じなんだからな。それに、血の繋がりがあるしよ」
「血の繋がりは、関係ないだろう」
「あるさ、全くの他人と身内では教えんのに熱の入り方が違う。身内だと情熱の炎を燃やして教えられるからな。鍛冶屋だけに」
「………」
「あれ、つまんなかったかい」
見た目は格好良い姿であるが、ジョークのセンスはないらしい。
「へぇー、二人は身内だったんだ」
と、モザーク自警団の女戦士グレープが話しかけてきた。
「あぁ、そうらしい。30年ぶりだからな、実感はないが」
鍛冶屋のハンマが言う。政はグレープに向かい、
「だから言ったろう。モザークとイザークは、身内みたいなもんだってな、ノーグやトンカだって、モザークの出だぜ。グレープだって、このイザークの村に身内が居るんだろう」
「あぁ、ルクアートとツールフとアプルとパインね」
この女戦士グレープと、果物屋のツールフの旦那であるルクアートとは、叔父と姪の関係であった。
グレープとアプルは従姉妹の関係になる。
「アプルっていやぁ、ちび三人組の子か。モンスターと戦うんだって、張り切ってたな」
「困ったもんだ。まだ、ちびのくせに。そんな事より、ハンマに聞きたいことがある。このイザークの村は荒野にありながら、モザークの村と違い、過し易い気温だし、それに植物も育ちが良い。なぜだ」
「あぁー、そんな事か。山の上に森があるだろう。森から湧き出た水が滝となって、貯水池に落ちる。するとな、水が熱を奪って周囲を涼しくさせるらしい。イザークの地形にも利点があって、モンスターや盗賊の侵入も阻んだ上に、村の涼しい気温を外に逃さないようになってるらしい。これはな、ゼファーの発案なんだぜ」
「ゼファー。カタナが会いたがっていた、あの物騒な爺さんか」
「おいおい、爺さんって言ったら怒るぜ。まだ、若いんだからよ」
「そうか、すまん」
「それで、植物は」
「それに関しちゃ、俺が言おう」
近くで、モザーク自警団のリーダー格の男と話しをしていたノーグが、声を掛けて来た。
「植物の育ちが良いのは、土のおかげなんだ。良質の土を散布して、少しづつ土へと変えていったんだよ。今では結構な量に増えてるからな。より多くの植物を育てられるようになったんだ。これも、ゼファーが開発したもんだがな。まっ、詳しくはゼファーに聞きな」
今度はモザーク自警団のリーダー格の男、パースが声を掛けて来た。
「ゼファーが、このイザークの村の村長なのか」
「村長?そんなもんは決めてはいないが、あえて言うなら、そうかな。最年長者だし、それに村を大きく豊かにしていったのは、ゼファーのおかげだからな」
「そんなに凄い人なのか」
「あぁ、見た目や性格を除けばな。風車を考えたのも、からくり人形を作ったのもゼファーだからな」「ほう、からくり人形か。モザークにはないからな、一度見てみたいもんだ」
「どこの家にもあるから、見ると良い」
こんなところで話しをしてても性がないだろうと、ノーグは提案した。
「そんならいっそ、ゼファー家にいってみるか」
「ちょっと風変わりなおっさんだが、あんまり気にするなよ」
第8話 少年の夢
第57回 白柴のヘンドリー
「大分使い込んどるようだのう」
ゼファーにとって空筒砲は、ライブジェムを知るための過程で、実験的に作製した装置である。
本来、攻撃を目的にしたものではない。
自分が作った装置が、この少年の役に立っていることを喜ぶべきか、攻撃用として用いられていることを恥じるべきか、複雑な気持ちでいた。
「ああ、こいつには随分お世話になったよ」
カタナの言葉を聞き、実際自分でもモンスターが襲ってきた際、空筒砲を武器として使用したことに嫌悪感を抱きながらも、必要なものであるという認識を持たざるを得なかった。
「何でこんな小さな石で、あんなすごい風が起こせるんだ」
当たり前の疑問である。
実際、少年はこの武器を使ってアルマジロンを空中に投げ出した上に、その体を四散させたのだから。
「理屈はわからん。だが、圧縮された空気をこいつに触れさせて打ち出せば、威力が何倍にも増加するんだ」
「すげえんだな、ライブジェムって」
「何だ、からくり屋の倅のくせに、ライブジェムを知らんのか」
「ああ、はじめて見たよ」
ライブジェムは、そうそう簡単に見つかるものではない。
実際ゼファーが手にしたライブジェムは、自身で見つけた1片と、少年の時、自宅の地下室で見つけた4片だけなのだから。
「ここに3つの筒のような物があるだろう」
トランペットで例えるなら、指で押さえる3本のピストンにあたる。
「ここに、オプションを装着出来るようにしてある」
「オプションって?」
「今はこのジェムしかないがの、本来は九種類あるそうだ」
「もし見つけることが出来れば、カプセルに入れて、ここに装着するんだ」
「どうなる」
「わからん」
「どんなジェムが存在するかはっきりせんし、装着したところで機能するかもわからんからな」
「はっきり言って、無駄なユニットかも知れん」
「かも知れんって」
「可能性の問題じゃな」
「いい加減だなあ」
「天才からくり技師たる、わしの第6感じゃ」
「この空筒砲を、ひとまずわしに預けろ、改良を施したい」
「改良?」
「充填時間が長いのがネックだからのう」
「連射できるほどの短縮は無理じゃろうが、せめて1分以内に充填できるように考えてみるわい」
「出来んのか、そんな事」
「この天才からくり技師であるわしに、不可能はなーい」
「本当かよ」
真面目な話しをしたと思ったら軽いノリで話すゼファーに、カタナは不安を感じつつも空筒砲を作ったと言うこの人物を、一応信用する事にした。
「ところでじゃ」
「カタナはそいつと話しをしたいと思ったことはあるか」
「そいつって、どいつ?」
「ジョグじゃよ」
「ジョグ…って、話せるわけないじゃないか」
「話せるんだよーーーん」
ゼファーは子供のように無邪気な笑顔である。
カタナは、からかわれてるんだろう、としか思わなかった。
「これじゃ」
カタナの前に出された、からくり装置。
それは、鶏のスザンヌさんと辰巳さんに使用した、言語変換機であった。
「こいつをジョグの首に巻きつけてみろ。面白いぞ」
カタナは信じていない。
からかわれついでと、装置をジョグの首に巻いてみた。
「ほら、何か話しかけてみい」
「何を」
「いつもの会話じゃ」
「どんな」
「わしが知るか」
「カタナ、お前アホなのか?」
「誰がアホじゃ」
声が聞こえた方向に顔を向けた。
「………」
「どょうぇーーーー!!!」
「ジョグが、ジョグがしゃべったーーーー」
カタナは顎を上下にガクガク、目を真ん丸むき出して、驚いてしまった。
ノーグの時と同じような光景である。
ゼファーは思い通りの展開に、心底笑っていた。
「あのなぁ、俺は毎回話してんだぜ。ただ言葉が違うからよ、通じねえだけで。だがな、お前の言葉はわかってたんだぜ。人間は不便だな。俺達の言葉が理解出来ねえんだからよ」
ぶっきらぼうで、おしゃべりな性格のジョグであった。
「ほんとにジョグが話してんのか。ゼファー、あんたが話してんじゃないのか」
カタナにしてみれば突然の出来事であり、今どういう状況にあるのか全く理解していなかった。
「だからよ、俺が話してんだって」
ジョグは自らが話してるんだぞとカタナに分からせる為に、後ろ足で立ち、前足をカタナの体に乗せ、顔を上げ声を出してみせた。
カタナはジョグを見下ろしながら、少しづつ状況を飲み込み始めた。
ゼファーは面白がっていたが、そろそろ教えてあげようかとカタナに顔を近づけ、
「つまりだなあ、ジョグは今まで通りの話し方をしてるんだ。ワンワンってな。この、からくり装置が人間の言葉に変換してるって訳だ。わかるか」
「わかるか」
ジョグはゼファーの話しの語尾を真似て言った。
ゼファーとジョグの顔を目の前にし、頷きながら、
「あ……あ…、わ、わかるよ」
カタナの勝手なイメージだが、ジョグはヒーローである自分の信頼厚い相棒であり、よき理解者である。
性格は温厚でありながら、いざ戦闘となると、その本能を果敢に発揮する。
また話し方と言えば、普段は無口だが、いざ発言すると重みがあり、深い言葉を発するダンディーな奴だと思っていた。
が、ガラスが砕け散るかのように、そのイメージは崩れていった。
「それからな、俺の名はヘンドリーって言うんだ。犬族の戦死、白柴のヘンドリーってな」
カタナは状況を理解しつつも、夢の世界へと旅立ってしまったのか、呆然と立ち尽くしている。
「お前はジョグだ」
「お前はジョグだ」
カタナの夢の世界では、ジョグと一緒に草原をスキップしながら歩いていた。
夢の中では、ジョグは擬人化されているようだ。
「それは、お前が勝手に付けた名前だろう。これからは、ヘンドリーって呼んでくれ」
夢の世界にはもう、白柴のヘンドリーの声は聞こえてこない。
「お前はジョグだ」
「これからもよろしくな、カタナ」
夢の中の草原で、カタナと白柴のヘンドリーは向かい合って、お辞儀をしている。
「よろしく、お願いいたします」
なぜか深々と頭を下げて、ご丁寧に挨拶するカタナであった。
ゼファーにとって空筒砲は、ライブジェムを知るための過程で、実験的に作製した装置である。
本来、攻撃を目的にしたものではない。
自分が作った装置が、この少年の役に立っていることを喜ぶべきか、攻撃用として用いられていることを恥じるべきか、複雑な気持ちでいた。
「ああ、こいつには随分お世話になったよ」
カタナの言葉を聞き、実際自分でもモンスターが襲ってきた際、空筒砲を武器として使用したことに嫌悪感を抱きながらも、必要なものであるという認識を持たざるを得なかった。
「何でこんな小さな石で、あんなすごい風が起こせるんだ」
当たり前の疑問である。
実際、少年はこの武器を使ってアルマジロンを空中に投げ出した上に、その体を四散させたのだから。
「理屈はわからん。だが、圧縮された空気をこいつに触れさせて打ち出せば、威力が何倍にも増加するんだ」
「すげえんだな、ライブジェムって」
「何だ、からくり屋の倅のくせに、ライブジェムを知らんのか」
「ああ、はじめて見たよ」
ライブジェムは、そうそう簡単に見つかるものではない。
実際ゼファーが手にしたライブジェムは、自身で見つけた1片と、少年の時、自宅の地下室で見つけた4片だけなのだから。
「ここに3つの筒のような物があるだろう」
トランペットで例えるなら、指で押さえる3本のピストンにあたる。
「ここに、オプションを装着出来るようにしてある」
「オプションって?」
「今はこのジェムしかないがの、本来は九種類あるそうだ」
「もし見つけることが出来れば、カプセルに入れて、ここに装着するんだ」
「どうなる」
「わからん」
「どんなジェムが存在するかはっきりせんし、装着したところで機能するかもわからんからな」
「はっきり言って、無駄なユニットかも知れん」
「かも知れんって」
「可能性の問題じゃな」
「いい加減だなあ」
「天才からくり技師たる、わしの第6感じゃ」
「この空筒砲を、ひとまずわしに預けろ、改良を施したい」
「改良?」
「充填時間が長いのがネックだからのう」
「連射できるほどの短縮は無理じゃろうが、せめて1分以内に充填できるように考えてみるわい」
「出来んのか、そんな事」
「この天才からくり技師であるわしに、不可能はなーい」
「本当かよ」
真面目な話しをしたと思ったら軽いノリで話すゼファーに、カタナは不安を感じつつも空筒砲を作ったと言うこの人物を、一応信用する事にした。
「ところでじゃ」
「カタナはそいつと話しをしたいと思ったことはあるか」
「そいつって、どいつ?」
「ジョグじゃよ」
「ジョグ…って、話せるわけないじゃないか」
「話せるんだよーーーん」
ゼファーは子供のように無邪気な笑顔である。
カタナは、からかわれてるんだろう、としか思わなかった。
「これじゃ」
カタナの前に出された、からくり装置。
それは、鶏のスザンヌさんと辰巳さんに使用した、言語変換機であった。
「こいつをジョグの首に巻きつけてみろ。面白いぞ」
カタナは信じていない。
からかわれついでと、装置をジョグの首に巻いてみた。
「ほら、何か話しかけてみい」
「何を」
「いつもの会話じゃ」
「どんな」
「わしが知るか」
「カタナ、お前アホなのか?」
「誰がアホじゃ」
声が聞こえた方向に顔を向けた。
「………」
「どょうぇーーーー!!!」
「ジョグが、ジョグがしゃべったーーーー」
カタナは顎を上下にガクガク、目を真ん丸むき出して、驚いてしまった。
ノーグの時と同じような光景である。
ゼファーは思い通りの展開に、心底笑っていた。
「あのなぁ、俺は毎回話してんだぜ。ただ言葉が違うからよ、通じねえだけで。だがな、お前の言葉はわかってたんだぜ。人間は不便だな。俺達の言葉が理解出来ねえんだからよ」
ぶっきらぼうで、おしゃべりな性格のジョグであった。
「ほんとにジョグが話してんのか。ゼファー、あんたが話してんじゃないのか」
カタナにしてみれば突然の出来事であり、今どういう状況にあるのか全く理解していなかった。
「だからよ、俺が話してんだって」
ジョグは自らが話してるんだぞとカタナに分からせる為に、後ろ足で立ち、前足をカタナの体に乗せ、顔を上げ声を出してみせた。
カタナはジョグを見下ろしながら、少しづつ状況を飲み込み始めた。
ゼファーは面白がっていたが、そろそろ教えてあげようかとカタナに顔を近づけ、
「つまりだなあ、ジョグは今まで通りの話し方をしてるんだ。ワンワンってな。この、からくり装置が人間の言葉に変換してるって訳だ。わかるか」
「わかるか」
ジョグはゼファーの話しの語尾を真似て言った。
ゼファーとジョグの顔を目の前にし、頷きながら、
「あ……あ…、わ、わかるよ」
カタナの勝手なイメージだが、ジョグはヒーローである自分の信頼厚い相棒であり、よき理解者である。
性格は温厚でありながら、いざ戦闘となると、その本能を果敢に発揮する。
また話し方と言えば、普段は無口だが、いざ発言すると重みがあり、深い言葉を発するダンディーな奴だと思っていた。
が、ガラスが砕け散るかのように、そのイメージは崩れていった。
「それからな、俺の名はヘンドリーって言うんだ。犬族の戦死、白柴のヘンドリーってな」
カタナは状況を理解しつつも、夢の世界へと旅立ってしまったのか、呆然と立ち尽くしている。
「お前はジョグだ」
「お前はジョグだ」
カタナの夢の世界では、ジョグと一緒に草原をスキップしながら歩いていた。
夢の中では、ジョグは擬人化されているようだ。
「それは、お前が勝手に付けた名前だろう。これからは、ヘンドリーって呼んでくれ」
夢の世界にはもう、白柴のヘンドリーの声は聞こえてこない。
「お前はジョグだ」
「これからもよろしくな、カタナ」
夢の中の草原で、カタナと白柴のヘンドリーは向かい合って、お辞儀をしている。
「よろしく、お願いいたします」
なぜか深々と頭を下げて、ご丁寧に挨拶するカタナであった。
第8話 少年の夢
第56回 ゼファーの回想
カタナとジョグが食事をとっている間、ゼファーはずっと“ライブジェム”を見続けている。
「私の人生の始まりは、ライブジェムにある」そう考えていた。
ゼファーが16歳の時である。
野原でラブロマンスを繰り広げている時、遠くの崖でほのかに光る物体を見つけた。
小さいかけらであったが、自ら光るそれを不思議に思い、自宅へと持ち帰った。
父親に見せたところ、自宅の地下室に同じ物が4片、小瓶に入れて保管されていると言う。
父親もからくり技師であったが、これについては何も知らなかった。
若きゼファーは、光るかけらを探しに地下室に下りた。
そこは、からくり部品が雑然と置いてある薄暗い部屋である。
壁周りには棚が置いてあり、その棚だけは部品別に整理されていた。
その棚の一部に未分類と書かれた一角がある。
そこに、かけらの入った小瓶があった。
薄暗い部屋の中で、ぼんやり光っていた為、直ぐに見つけることが出来た。
部屋に戻ろうと振り向いた時、床に無造作に置かれた本に足を乗せ、すべって転んでしまった。
頭にきたゼファーは、その本を持って投げようとした時である。
かけらの光で、ぼんやりと本のタイトルが見えた。
そこには、“Doll”と書かれている。
聞いたことも無い言葉だった。ゼファーの心に響くものがあり、不思議な感覚で眺めていた。
部屋に戻ったゼファーは、小瓶を机の上に置き、ベッドに横たわって“Doll”なる本を読んだ。
かなり古い本であり、文字が読めないほど薄くなっている箇所もあるが、何とか自分の知識をフル活用して、読み進めていった。
“からくり人形”に関する内容であった。
ゼファーの家は、代々からくり技師を生業としており、小さい頃から“からくり”に接していた。
その為、難なく理解することが出来た。
その本の最後のほうで、限りなく人間に似せた“からくり人形”について語っているページがあった。
子を亡くした親や、親を亡くした子達の為に、人間に似せた“からくり人形”を制作したのだそうだ。
現在、ゼファーのいる時代に、人間に似せた“からくり人形”は存在していない。
それは、この“からくり人形”は、外皮を有機体で覆ってあり、年月と共に劣化して行き、1000年近くたった現在は、発掘されても只の機械構造体に過ぎなかったからである。
当時でも、この有機体を維持することは難しく、持っても10年が良いところであった。
擬似細胞の修復が、ある一定数を超えたら崩壊してしまうからである。
その細胞修復の数を増やすことは困難なため、細胞の維持構成の時間を延ばすことが試みられた。
が、思うほどの成果が出ない。
そんな時であった。
“ライブジェム”と呼ばれる鉱石が見つかり、数々の可能性を秘めている事がわかった。
その鉱石の中には、細胞の維持保存や修復に効果がある種類も存在する事がわかった。
医学の分野で大きな進展が考えられたが、人間に投入する前に、有機体を持つ“からくり人形”で実験を行う事とした。
その結果、細胞崩壊する事無く、50年以上の効果が期待できると結論付けた。
その実験に使われた人形は、子供の姿をしていたことから、“からくり童子”と呼ばれるようになった。
ゼファーが読んでいた本には、その“ライブジェム”について書かれた記事があった。
当時はまだ未知の鉱石であった為、詳細には触れていないが、水晶に酷似しており、ほのかに輝いているとある。
ゼファーは小瓶に入った物体、これこそが”ライブジェム”ではないかと考えた。
そして、自ら“ライブジェム”の研究に取り組み、4年後の20歳の時に空筒砲を完成させたのである。
とはいっても、“ライブジェム”を知るための副産物のようなものであったのだが。
さらには、“からくり童子”なる存在が気に掛かり調べていくうちに、その研究施設が現在のニーパン大陸のどこかに存在していたことがわかった。
今となっては、その研究施設があるはずはないのだが、新たな手がかりが見つかるのではという期待感が胸を膨らませた。
若きゼファーは故郷を飛び出し、当てのない旅を続け、ついにイザークの村にたどり着いたのである。
秘密の洞窟にて発掘される“からくり人形”がそうであるし、ガラクタ山から見つかる“からくり装置”いわゆる機械の類もそうである。
ゼファーがイザークの村にやって来た時には、山の上に森は無く、当然水も湧き出てはいない。
ゼファーは見当をつけ、水脈を探した。
それが今、ゼファーの自宅がある風車小屋の場所に当たるのだが、この下には豊富な水があった。
それは配管が伸びていて、容易に水をくみ上げることが可能だったのである。
それに、イザークの地形にも目を向けた。
山からクワガタ虫の角のように伸びた崖が存在する。
それは不自然な事であったからだ。
そして今、自分の近くにフィズリーとジードが存在している。
「これは、わしの運命なのかも知れない。“ライブジェム”を解析する事こそが、わしの使命」
だと、考えにふけっていた。
ゼファーが若い頃に読んだ本には、こうも書いてあった。
“ライブジェム”には、九つの種類のエネルギー要素がある。
それは火であり土でありと、書かれているのだが、後は文字がかすれて読み取れない。
今、ゼファーは九つの1つが風であり、種であり、フィズリーが言っていた発ではないかと考えている。
それが正しい答なのか、正しければ残りの4種類は何であるかを知りたかったし、“ライブジェム”には、どういう可能性が秘めているのかも知りたかった。
また、“からくり童子”の詳細についても知りたかった。
ゼファーの考えでは、“ライブジェム”こそが“からくり童子”のエネルギー源だと考えている。
“からくり人形”はプログラムによって動いている事を、ゼファーは知っている。
しかし、“からくり童子”であろうフィズリーは、人間と見間違うほど精巧な作りをしており、意思を持っているかのように思える。
とてもプログラムによって動いているようには思えない。
“からくり人形”と違い、電気による充電は必要ない。
ただ人間とあきらかに違うところが、1つあった。
フィズリーを発見してから今日までの2年間、体の成長がないという事である。
このままイザークの村に居続けたら、村人はフィズリーを不思議がる日が必ず来よう。
この先どうしたら良いか、手にした“ライブジェム”の光を眺めながら、考えにふけっていた。
「あの、もう食事は終わったんですけど。そろそろ、メンテお願いできませんかね」
カタナはゼファーを覗き込んで言った。
「私の人生の始まりは、ライブジェムにある」そう考えていた。
ゼファーが16歳の時である。
野原でラブロマンスを繰り広げている時、遠くの崖でほのかに光る物体を見つけた。
小さいかけらであったが、自ら光るそれを不思議に思い、自宅へと持ち帰った。
父親に見せたところ、自宅の地下室に同じ物が4片、小瓶に入れて保管されていると言う。
父親もからくり技師であったが、これについては何も知らなかった。
若きゼファーは、光るかけらを探しに地下室に下りた。
そこは、からくり部品が雑然と置いてある薄暗い部屋である。
壁周りには棚が置いてあり、その棚だけは部品別に整理されていた。
その棚の一部に未分類と書かれた一角がある。
そこに、かけらの入った小瓶があった。
薄暗い部屋の中で、ぼんやり光っていた為、直ぐに見つけることが出来た。
部屋に戻ろうと振り向いた時、床に無造作に置かれた本に足を乗せ、すべって転んでしまった。
頭にきたゼファーは、その本を持って投げようとした時である。
かけらの光で、ぼんやりと本のタイトルが見えた。
そこには、“Doll”と書かれている。
聞いたことも無い言葉だった。ゼファーの心に響くものがあり、不思議な感覚で眺めていた。
部屋に戻ったゼファーは、小瓶を机の上に置き、ベッドに横たわって“Doll”なる本を読んだ。
かなり古い本であり、文字が読めないほど薄くなっている箇所もあるが、何とか自分の知識をフル活用して、読み進めていった。
“からくり人形”に関する内容であった。
ゼファーの家は、代々からくり技師を生業としており、小さい頃から“からくり”に接していた。
その為、難なく理解することが出来た。
その本の最後のほうで、限りなく人間に似せた“からくり人形”について語っているページがあった。
子を亡くした親や、親を亡くした子達の為に、人間に似せた“からくり人形”を制作したのだそうだ。
現在、ゼファーのいる時代に、人間に似せた“からくり人形”は存在していない。
それは、この“からくり人形”は、外皮を有機体で覆ってあり、年月と共に劣化して行き、1000年近くたった現在は、発掘されても只の機械構造体に過ぎなかったからである。
当時でも、この有機体を維持することは難しく、持っても10年が良いところであった。
擬似細胞の修復が、ある一定数を超えたら崩壊してしまうからである。
その細胞修復の数を増やすことは困難なため、細胞の維持構成の時間を延ばすことが試みられた。
が、思うほどの成果が出ない。
そんな時であった。
“ライブジェム”と呼ばれる鉱石が見つかり、数々の可能性を秘めている事がわかった。
その鉱石の中には、細胞の維持保存や修復に効果がある種類も存在する事がわかった。
医学の分野で大きな進展が考えられたが、人間に投入する前に、有機体を持つ“からくり人形”で実験を行う事とした。
その結果、細胞崩壊する事無く、50年以上の効果が期待できると結論付けた。
その実験に使われた人形は、子供の姿をしていたことから、“からくり童子”と呼ばれるようになった。
ゼファーが読んでいた本には、その“ライブジェム”について書かれた記事があった。
当時はまだ未知の鉱石であった為、詳細には触れていないが、水晶に酷似しており、ほのかに輝いているとある。
ゼファーは小瓶に入った物体、これこそが”ライブジェム”ではないかと考えた。
そして、自ら“ライブジェム”の研究に取り組み、4年後の20歳の時に空筒砲を完成させたのである。
とはいっても、“ライブジェム”を知るための副産物のようなものであったのだが。
さらには、“からくり童子”なる存在が気に掛かり調べていくうちに、その研究施設が現在のニーパン大陸のどこかに存在していたことがわかった。
今となっては、その研究施設があるはずはないのだが、新たな手がかりが見つかるのではという期待感が胸を膨らませた。
若きゼファーは故郷を飛び出し、当てのない旅を続け、ついにイザークの村にたどり着いたのである。
秘密の洞窟にて発掘される“からくり人形”がそうであるし、ガラクタ山から見つかる“からくり装置”いわゆる機械の類もそうである。
ゼファーがイザークの村にやって来た時には、山の上に森は無く、当然水も湧き出てはいない。
ゼファーは見当をつけ、水脈を探した。
それが今、ゼファーの自宅がある風車小屋の場所に当たるのだが、この下には豊富な水があった。
それは配管が伸びていて、容易に水をくみ上げることが可能だったのである。
それに、イザークの地形にも目を向けた。
山からクワガタ虫の角のように伸びた崖が存在する。
それは不自然な事であったからだ。
そして今、自分の近くにフィズリーとジードが存在している。
「これは、わしの運命なのかも知れない。“ライブジェム”を解析する事こそが、わしの使命」
だと、考えにふけっていた。
ゼファーが若い頃に読んだ本には、こうも書いてあった。
“ライブジェム”には、九つの種類のエネルギー要素がある。
それは火であり土でありと、書かれているのだが、後は文字がかすれて読み取れない。
今、ゼファーは九つの1つが風であり、種であり、フィズリーが言っていた発ではないかと考えている。
それが正しい答なのか、正しければ残りの4種類は何であるかを知りたかったし、“ライブジェム”には、どういう可能性が秘めているのかも知りたかった。
また、“からくり童子”の詳細についても知りたかった。
ゼファーの考えでは、“ライブジェム”こそが“からくり童子”のエネルギー源だと考えている。
“からくり人形”はプログラムによって動いている事を、ゼファーは知っている。
しかし、“からくり童子”であろうフィズリーは、人間と見間違うほど精巧な作りをしており、意思を持っているかのように思える。
とてもプログラムによって動いているようには思えない。
“からくり人形”と違い、電気による充電は必要ない。
ただ人間とあきらかに違うところが、1つあった。
フィズリーを発見してから今日までの2年間、体の成長がないという事である。
このままイザークの村に居続けたら、村人はフィズリーを不思議がる日が必ず来よう。
この先どうしたら良いか、手にした“ライブジェム”の光を眺めながら、考えにふけっていた。
「あの、もう食事は終わったんですけど。そろそろ、メンテお願いできませんかね」
カタナはゼファーを覗き込んで言った。
今日のわんこ

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