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第42回 第6話 秘密の洞窟 その5

ヴィーーーーーーーン

カプセルの音が強くなっている。

ゼファーはカプセルを覗き込むが、まだ真っ暗なままだ。

それを見たフィズリーも覗き込もうとして、つま先立ちするが届かない。

「フィズも見たい」

と言うフィズーリーを抱きかかえ、一緒に覗き込む二人。

カプセルは、霧状の物体を少しづつ吸い込んでいるようだ。

真っ暗だったカプセルの中が、徐々に澄んでいく。

すると、男の子が姿を現わしだした。

ライトが点灯し、中が明るくなると同時に霧状の物体はすべて消えていた。

プシュッ   シュー

音と共にカプセルがふたを開けた。

二人は、さらに顔をカプセルに近づけて覗き込む。

男の子の傷ついた体の表面がきれいになっており、血色を取り戻したかのように、顔色も良い。

「お眼目、開けないね」

「だめだったかな」

そう、会話しているときだった。

手の指がピクリと動いた。

「動いた」

「今、動いたよ」

フィズリーは、ゼファーに抱きかかえられている状況で暴れている。

「こらフィズ、おとなしくせんか」

今度は、男の子のまぶたがピクピクと動いた。

「動いた、動いた」

「「こら、フィズ」

フィズリーは、ゼファーに抱きかかえられている状況で、またまた暴れた。

そして、顔を近づけ男の子の目を凝視する。

すると、男の子は静かにまぶたをゆっくりと開けた。

その瞳は青い。

天井を見据えている。

青い瞳に、ゼファーとフィズリーの顔が映っている。

「ねえ、動ける」

フィズリーは、無邪気に喜んでいる。

男の子は静かに上半身を起こした。

「おなまえは?」

「………………」

男の子は、フィズリーを見つめた。

が、そのまま動かない。

「私は、フィズリー。あなたは、だあれ?」

   ジ・ジー

フィズリーの頭の中で声が聞こえた。

男の子が発したのだろうか。

「じ・じい?」

「じじい!!」

フィズリーは思いっきり叫んだ。

「だれが、じじいじゃ!!」

なぜか、ゼファーが即座に突っ込みを入れた。




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第41回 第6話 秘密の洞窟 その4

「おじいちゃん」

フィズリーが、ゼファーの元へ駆け寄ってきた。

「見て、この砂」

「茶色くて重いの」

手の平に山盛りにして持ってきた。

「それはな、砂ではなく、土と言うんだ」

「つち?」

この空間内の床は土である。

大地は砂で覆われているのに、なぜ、ここだけが土なのか。

ゼファーは以前、ここの土を持ち帰り研究した事がある。

この土には栄養分が豊富で、植物がよく育つ。

また、ほんの少しづつではあるが、砂を土に戻すことも分かった。

おそらく、ここの土には微量のナノマシンが含まれているのだろう。

が、そこまでの解析は、ゼファーには出来ていない。

どういう効果があると、付き止めたに過ぎない。

崩壊時に外の砂が、今は洞窟となった設備内に流れ込んできた。

その砂が、ナノマシンにより長い年月をかけて、土へとなっていったのかも知れない。

ゼファーはこの土を、農夫であるノーグに渡し、畑に蒔いたのである。

この荒れた大地で生き抜くためには、当然、水と食料が必要であったからだ。

しかし、ゼファーはフィズリーのために、その土を用いようとはしなかった。

(花は食えん)からである。

また、食物を育てる畑を造るのに懸命だったからでもある。

畑の砂の量に換算して一割程度まいたのだが、今では三割近くが土になっていた。

「この土に種を蒔くと、お花が咲くかな?」

ぎくりと思わせる質問ではあったが、同時に真実を話さなければと思い、

「たぶん咲くじゃろう」

「だがフィズよ、よくお聞き。ここの土にも限りがある」

「まず必要なことは、みんなが生きることだ」

「生きるためには食料がいる「

「食料を得るためには、畑が必要だ」

「その畑が、作物が育たんとなれば問題だぞ」

「そこで、畑に充分な栄養が必要」

「その為に、ここの土を利用しているんだ」

「かわいそうだが、今は花のために、ここの土を使うわけにはいかんのだ」

フィズリーは大分不満そうだが、切実に訴えるゼファーの顔を見ていて、頷くしかなかった。

しかし、ゼファーはフィズリーにはあまい。

涙をこらえて我慢しているフィズリーを見て、自信の誓いを破ってしまった。

「そうじゃな、一鉢分ぐらいなら、いいかな」

「え~、ほんと?」

「やったあ」

フィズリーは、手の平に山盛りにしていた土を、収集かごに入れた。

(わし、ものすごく甘ちゃんだのう、畑だけに使うつもりだったのに)

さっきの力説が、無意味に思えた。

ゼファーは髪の毛をかきながら自分の甘さを恥じていたが、フィズリーの喜んでいる顔を見て、

(まっ、良いか)

自分を納得させていた。




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第40回 第6話 秘密の洞窟 その3

秘密の洞窟は、自宅の裏。

誰の目にも触れずに、洞窟に入れる。

ゼファーは、洞窟の入り口でランタンに灯をともし、奥へと入っていった。

中は暗い。入り口付近は、他の洞窟と変わるところはない。

「探検?」

フィズリーは、なぜか嬉しそうに、飛び跳ねながらついてくる。

奥に奥に進むにつれ、ゼファーが掘り返したらしい後が伺える箇所がある。

さらに奥へと入っていくと、周りの壁が所々で明るい。

壁自体が光を発している。

照明の一種であろう。

こういう高度な文明は、今現在ない。

1000年前の文明の残骸であろうと思われる。

が、今現在も壁の照明が失われず、部分的にしろ稼動している。

この事については、後で述べる機会がないだろうから、今話すとしよう。

この照明は、第2話で語ったヒカリゴケの成分を抽出し、微量の電気で光りを増幅しているに過ぎない。

光り自体は、この設備の中を巡る配管のおかげである。

崖の上にまで配管が伸びていて、そこで光りを吸収すると、設備全体でその光りを循環させることが出来る。

地上に光がなくならない限り、永遠に発光できる仕組みである。

1000年前の文明は、自然の力さえも流用した、高度な社会だったのかもしれない。

部分的な照明であったが、その光りは充分洞窟の中を照らしており、足元もはっきり映し出されていた。

ゼファーは、ろうそくがもったいないからと、ランタンの火を吹き消す。

フィズリーは、壁が明るいのが、よほど気になるらしい。

「すごーい」

ゼファーはそれを無視してさらに進む。

奥に進むにつれ、壁の破損箇所は少なくなっていき、とうとう壁全体、天井までもが照明の機能を有していた。

が、しかし足元は土である。

この違和感はなぜなのか、それについては後で述べよう。

フィズリーは、壁に寄っては叩いてみたり、両の眼を壁に付くんじゃないかと言わんばかりに寄せたりしている。

「すごーい、昼間みたいに明るい」

そうこうする内に、広い空間に出た。

「ここじゃ」

ここは、ゼファーとフィズリーの出会いの場所だ。

「フィズ、ここを覚えとるか」

「知らなーい」

フィズリーは、キョロキョロと辺りを見回し、縦横無尽に駆け出した。

「知らんか」

「目覚める前の記憶は、全くないんじゃの」

フィズリーの記憶は、

(目を開けたら、ゼファーがいた)

それだけだ。

目を開けてから、今この時までの記憶しかない。

ゼファーは、フィズリーが眠っていたカプセルを目の前にしていた。

「壊れとるかの」

しつこく言うが、ゼファーは天才的感を持って、ツルハシでカプセルのふたをこじ開けた。

「な!」

「…………」

「直っとる」

実はナノマシンによる自動修復が行われていたのだが、ゼファーは知らない。

その技術は、すでに失われている。

「誰か、直したのかな」

だから、ナノマシンによる自動修復である。ゼファーの知らない技術。

ゼファーはかごを下ろし、中から男の子を抱き上げた。

覆っていた布を取り、カプセルに近づけると、男の子に反応するかのように、自動的にふたを開け、ライトが点灯した。

「なんじゃ、これは」

「…………ゆ・う・れ・い?」

恐る恐る周囲に目を配るが、それらしき気配はない。

カプセルの中に、フィズリーが寝ていたように男の子を寝かせる。

すると、カプセルが自動的にふたを閉じた。

「なんじゃ、これは」

「…………ゆ・う・れ・い?」

恐る恐る周囲に目を配るが、それらしき気配はやっぱりない。

カプセルの中に、霧状の物体が流れ込んでいく。

それは、あっという間に男の子を覆いかぶさり、見えなくなってしまった。

そのころフィズリーは、土遊びをしている。

この空間の床も土なのだ。

洞窟の外は砂だらけ、だがこの空間に存在しているものは、土なのである。

この土は、森の中の土と同じではないのか、ゼファーはそう思っている。

カプセルの中は、ライトが消灯し、真っ暗になった。

「まずいかな」

すると、

ウィーーーーーーーン

カプセルは、静かな音を立て始めた。

「何か、やっとるのか?」

そう、カプセルは男の子の異常部分を検知し、修復を始めていた。




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第39回 第6話 秘密の洞窟 その2

とりあえず、ゼファーは目の前にあったボタンを押しまくった。

「開かん」

「この天才からくり技師の頭脳を持ってしても、駄目とは}

「ええい、こうなりゃ」

発掘用に持っていたツルハシで、強引にカプセルのガラスのふたをこじ開けた。

「ふん、やはり天才」

ゼファーは、カプセルの中に横たわっていた女の子を引き上げた。

カプセルから出た女の子のわき腹と胸と腹部にある、うっすらと線が次第に消えていき、わき腹にかすかに残る程度になった。

「おお、不思議だ。やはりこれは童子に間違いない)

そして自らの上着を脱ぎ、女の子に着せてやった。

女の子は、人間と間違えるぐらいの精巧な作りをしていた。

なんと、素っ裸だったのである。

からくりとは言え、人間に寄せるような感情を持っていた。

そして、からくり収集用のかごに入れた。

「なんだ、これは」

女の子が横たわっていたカプセルの中に、黒い小さな物がたくさんある。

その黒いものを一粒手にとって、

「種?これは植物の種なのか?」

「なぜ、こんなものが」

ゼファーは、種を見るのは初めてであった。

イザークがあるニーパン大陸の中でも、カタハシ地区は植物が育ちにくい。

育った植物は実は出来るが、種までは出来ない。

植物は株分けして増やしていた。

ゼファーは種をかき集め、ポケットに入れた。

すると、種の下に隠れていた、植物図鑑を見つけたのである。

それには、花の写真が載っている。

「これは何だろう」

ゼファーは花を見たことはない。

植物は、花をつけずに直接実になるからである。

「おもしろい形をしている」

そう言うと、女の子を入れた収集かごに一緒に入れてやった。

「ここは、だれにも見せんほうが良いだろう」

「訳分からん物を見せても、みんな困るだけだ」

「それに……、わしの為にも」

他にも、からくりが埋もれているかも知れん。

秘密の洞窟

そう思い、みんなには内緒にする事にした。

そして自宅に戻ると、女の子にフィズリーという名を付けたのである。

これが、ゼファーとフィズリーの出会いである。

2年前の事だ。

話を元に戻す。

男の子のからくりを見て、考え込んでしまったゼファー。

(フィズは、かごを背中に背負って帰る途中に、自ら目を開けて動き出したんだっけ)

(からくり人形ならともかく、からくり童子は複雑すぎて、よう分からん)

(どうしよう)

考え込んでいるゼファーを見上げながら、ジイーッと一点凝視しているフィズリー。

「おじいちゃんは、世界一の天才だから、治せるよね}

フィズリーは、ものすごく期待した目で見ている。

(まずい)

(わからん)

(どうしよう)

どうして良いか分からないゼファーだが、フィズリーの手前、そんなことも言えない。

普段から、

「わしは天才だー」

と、フィズリーの前で、いや、村人の前でも自慢げに語っていたからである。

とりあえずまだ、考えているような態度をとっていた。

(そうだ、フィズが眠っていた、あのカプセルだ)

(あれもよう分からんかったが、何とかなるかも知れん)

行き当たりばったりの方法ではあるが、一応の可能性を考えた。

「フィズ、この子を連れて出掛けるぞ」

そう言うと男の子を布で覆い、収集かごに入れて背負った。

「お、おもい」

そりゃそうだ。

ガラクタ山からゼファーの風車小屋まで、大人二人で抱え込んで運んだ程だ。

(うー、腰に来る)

そうなるのも当たり前だ。

「おじいちゃん、大丈夫?」

それでも、フィズリーの前で格好つけたかった。

「大丈夫だ、すぐそこだからな」

「おでかけだー」

フィズリーは、はしゃいでいるが、そんな気楽なものではない。

(そういえば、ぶっ壊さなかったっけ?カプセル)

ゼファーは、天才的な感を働かせて、ツルハシでカプセルをこじ開けた事が、脳裏によぎった。

(まっ、何とかなるだろう)

(わしは天才だ…………たぶん)




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第38回 第6話 秘密の洞窟 その1

「こ、これは、童子か」

ゼファーは、ソファーに寝ている男の子を見て驚いた。

最初フィズリーが家に連れてきたときは、気が動転して気付かなかった。

人間と思っていたのだが、フィズリーに事情を聞き男の子を見ると、体の部分が人間とは違う。

しかしそれは、一見しただけでは分からない。

ゼファーは、フィズリーと接していた。

そのおかげか、人間とからくり童子の微妙な違いを知っていた。

からくり童子、それは人間に似せて作られた、生きているかのような精巧な機械仕掛けの人形。

見た目は人間そのものである。

ただ、服を着せたら隠れる部分、そう、体はからくりに近い部分もある。

精巧に作られているからくり童子とは言え、壊れることを想定して、直せるよう設計されている。

わき腹に、肌と同じくらいの色合いで、ほんの少し線が入っている。

「ねえ、治してあげて」

ゼファーの横に立って男の子を見ていたフィズリーは、ゼファーじいさんに向き直って言った。

「うーん、ちょっと難しいな」

ゼファーは考え込んでしまった。

普通のからくり人形と違い、からくり童子ともなるとその構造は全く違う。

からくり技師とは言え、手に負えないのである。

ここで、ゼファーとフィズリーの出会いを話しておこう。

ある日、ゼファーはからくりの部品を求めて崖下の洞窟に入っていた。

このイザーク周辺は、からくり産業が特に盛んな地だったという事を、先に述べた。

この洞窟はからくりの部品が多く埋まっている。

ごくたまに、からくり人形を1体丸ごと発掘することもある。

この洞窟は、ゼファーの風車小屋の後ろに有り、普段は誰も入れないよう扉をつけている。

村人には内緒にしている秘密の洞窟であった。

その日は、なぜかひとつもからくりを発掘出来ずにいた。

しかたなく、ゼファーは洞窟の奥の奥へと進んで行った。

どれほど歩いたのだろう、広い空間へと出たのである。

そこには、いくつかの扉があった。

3つの扉が壊れていて中を覗くことが出来たが、何もなかった。

残りの扉を開けようとしたが、引いても押しても開かない。

(もしかして、横にスライド?)

と、試してみたが開かない。

(もしかして、回転?)

と試したが、開くわけがない。

「開け、ゴマ」

何の唱えだか分からないが、ピクリともしない。

広い空間の中央に、土が盛り上がっている部分がある。

ゼファーは、その部分を掘り起こしてみた。

すると、中から大きなカプセルが出現した。

上部はガラスだろうか、中が見えるようである。

ゼファーは布でガラスを拭いた。

カプセルの中はライトらしき物があって、カプセルの中をはっきり映し出している。

「これは、人間か?」

青い髪の毛をした、幼い女の子が入っていたのである。

「なぜ人間がこんな所に」

からくり技師のゼファーでも、人間とからくり童子の区別を付けられなかった。

と言うより、それまでからくり童子を見たことがない。

「いや、これは人間ではない」

よく見ると、わき腹と胸と腹部に、うっすらと線が浮かび上がっている。

「からくりなのか?」

「いや、まるで生きてるみたいだ」

「こんな人間みたいな、からくりが……あるはずが……」

ゼファーにはからくりの知識が豊富にある。

ゼファーの家系に代々伝わる文献を、持っている。

その本に、あることが書いてあった。

「ど、童子!」

「これは、からくり童子なのか。36体あると言われる、からくり童子の1体」

知るには知っていたが、からくり童子の存在を信じていたわけでは、なかった。

それだけに、驚きを隠せない。




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